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第5話

「不合格…」 中学最後、清々しい快晴の日。貰った通知に書いてあった文字は余りにも淡白なその三文字だった。 名前を大田小太郎という。 三兄弟の末っ子。出来の良すぎる一番上の兄と変わり者の二番目の兄の姿を見て育った。家に居ても常に付きまとうのは長兄への劣等感。 いくら制服を規則通りに着こなして、いくら真面目な生活態度をとっていようとも軽々しく合格した兄とは正反対に不合格を得た。結局進んだのは滑り止めのバカの吐き溜まりの学校。腹癒せに不合格の烙印を押されたその日、誰にも言わず密かにはじめてのピアスホールを開けた。首を絞めるネクタイも投げ捨てた。髪も切って喧嘩もした。 そして、家出という結末。 「大田くん、僕ここに来て負けを知ったの二度目なんだよね。」 「ふうん。」 「中学の時、先輩に負けたんだけど…大田くんは?」 「…いつも負けてた。 嫌な事思い出させんなよクソ。」 立ち入り禁止のロープが下げられた屋上でそんな会話をしていた。距離を縮める亜澄とは反対に顔を背け呟く。 「大田くん、僕ともヤろうよ。」 「何を。」 「け ん か。」 「やんねえよ、日輪先輩とやれよ」 「ちょっと、僕がどんな目に合ったか見てたよね?」 「知らねえよ。」 不思議とこうして亜澄と他愛の無い会話を繰り返していると、過去の苦い記憶も次第に薄れていく。何だかんだこの環境に満足しているのだと気付いたのは、割と最近。 つい昨日のあの件で負った傷はまだ生々しく姿を遺していて上に被せたガーゼが痛々しい。実際気を紛らわさなければずきずきと響くような痛みが未だあった。 「えい。」 「痛っ。…おい。」 「難しそうな顔してるんだもん。」 「へえ。」 ずきり、と一際大きな痛みに顔を歪めると、逆に亜澄は悪い笑みを浮かべる。仕返しだと腹部を突いてやれば「ん゛」と声を上げ腹を抑える。 「お前も痛いんだろ。」 生傷の絶えない生活になりそうでも、これはこれで充実している。 大田小太郎の話。

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