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第2話

そして、さらに厄介なことがひとつある。 前にも述べた通り、俺はセフレからの恋人というのはあまり好ましく思っていない。しかし。 「社長」 どうも最近おかしい。昼間は特に何も思わない。良い仕事ぶりだ、そうとしか言葉が出てこない。 「社長」 それなのに、夜は。身体を重ねる日は、前に比べて緊張することが増えた。例えば、その日だけは柔軟剤を少し多めにしてみたり、ホテルに行く前には一度簡易シャワーなどを浴びたり。衛生面にも気をむけるようになった。 「社長」 謎だ。まるで、あいつに少しでもいいように見られたいと思っているような。たかがセフレにそんな感情を抱いてしまっているような自分がいる。 考えたくもないがもしかしたらこの気持ちは… 「しゃーちょう!」 「っ!何だ?」 突然のあいつの大声に心臓が飛び跳ねる。いや、これは大声を聞いたからであって、あいつの声だったからという訳では無い。 「さっきから瑠生が呼んでますよ?珍しい、ぼーっとしちゃって」 「あ、ああ、済まない。何だった?北園」 まさか考え事で人の声が聞こえなくなるとは。相当重症だな、これは。早めに解決しないと。 「あ、この前の資料の件で。どうなりました?」 「それならここに…。はい、一応メモ貼っといたから、読んでくれ」 「ありがとうございます」 北園は資料を受け取ると、そのまま自分のデスクに戻っていった。俺はと言うと、どうにかして考えるのを辞める方法はないかと必死に頭を捻らせていた。 しかしそれも皆無。 「社長、そろそろ定時ですねぇ。いやー、今夜は楽しみだ」 「そう、だな。うん、残り時間たっぷり仕事してくれ」 遼河はちらりとこちらを見ながら笑うもので、少し苛立ちが募り仕事をこの時間から増やしてやった。遼河は軽く暴言を吐きながら自分のデスクに帰っていった。少しの残業も覚悟させる量だ。普段から舐めたような態度をとるからだ。たまには仕返ししてやらんとな。 「他は各自キリのいいところで終わるように。お疲れ様」 遼河に笑みを向けながら他の社員に声をかける。社員達は面白そうに笑いながら帰り支度を始めた。そして遼河は、どうにかして仕事を終わらせようと必死になっており、それを眺めるのも随分と楽しい。 「ほら、夜は楽しみなことがあるんだろう?急がないとなぁ」 「くっそ、この野郎」 遼河は俺を一度睨むとまたパソコンとにらめっこを始めた。

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