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第3話
社員がほぼ全員帰宅し、約一時間。そろそろ遼河も仕事が終わることだろう。隣の喫茶店でくつろいでいた俺は、遼河の好きな無糖を片手に社内へと戻っていった。
「…遼河?終わったか?」
「社長…。死ぬ気で終わらせましたよ…」
目の前には既にやつれ顔の遼河が、デスクに突っ伏している。
「お疲れ様。ほら、これ飲んで元気だせ」
自ら出した仕事なのにも関わらず良い上司面する俺も、かなり悪魔だな。そんなことを思いながら笑い、遼河の前に先程のコーヒーを差し出す。遼河は会釈をしてそのコーヒーを喉を通すと、生き返ったような顔をして微笑んだ。
「あざす。本当にここのコーヒー美味いですよね」
勢いよくコーヒーを飲み干した遼河は、まるでジュースを口にした子供のようでどこか可愛らしいものを見た。俺は遼河の隣に座り、時間を確認しようとスマホを取り出した。
「…要斗さん」
突如、隣いる遼河の手が頬に触れた。しかも急な名前呼び。ここで来るのは狡い。未だに慣れない名前呼びに、見る見るうちに頬が赤らんでいくのが感じられる。
「ふは、顔真っ赤。かわい…」
小さく微笑みを浮かべた遼河は、するりと頬を撫で下ろした。そのなんとも言えない擽ったさに、目を細めた。頬を撫でていた手がどんどん降りてくる。顎、首筋、うなじ。どこも割れ物を扱うかのように、ゆっくりと丁寧に撫でてくる。そして、優しく笑うのだ。
この顔は狡い。
「要斗さん、もう我慢できない…」
そんな目で見つめるな。
「…俺も」
俺も、我慢できなくなる。
「んっ、ふ、っん、まだ、いりぐ、ちっ」
「大丈夫です。崩れたら運びます。今は集中して…」
「そういう事じゃ、んんっ、あ、ふぅ、…」
この建物、三階はオフィスだが二階は俺の部屋として使っている。こっちの方が何かと楽だし、残業して終電を逃す、なんてこともないからだ。
しかし、そのせいか本当に溜まっている時はここでコトを致してしまうことが多い。
遼河は部屋に入るなり、まだ玄関だと言うのに早速唇を重ねてきた。激しく荒々しい口付けは、一時間分の鬱憤もこもっているのだろう。
唇を割って入ってきた舌は、すぐさま俺の舌を見つけだし根元からしっかりと絡ませた。ザラザラとした感触が舌先から伝わってくる。そして一度離れた遼河の舌は、次に上顎を攻めた。上顎を舌先だけで執拗に攻められると、ぞわりとしたものが全身を走り、足が崩れかける。崩れ落ちそうになった身体を支えるべく腰に回された遼河の手のひらは、さりげなく腰周りをいやらしく撫でた。
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