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第11話

今、北園はなんと言った? 「一発、ヤる…?」 オウム返しするように北園を見るとクスクスと面白いものを見るように笑い、頷いた。 「そうです。これくらい、簡単でしょう?」 頷かれてもなお、北園が何故こんなことを言い出したのか分からない。あまりにも急すぎる提案に、まだ思考回路が追いついていかなかった。確かに金を要求されたりするよりはマシだが、これはこれできついものもある。しかも、このようなことを言うだけあって、北園もゲイなのだろうか。そもそも北園にだかれる自分を想像することが出来ない。色々なことで頭がパンクしそうだ。 「あ、言い遅れましたけど、社長に拒否権はないですよ?当たり前ですが」 さも当然のように脅しかけてくる北園は、普段見ている優秀で仕事も早く人望も厚い北園とは、大違いだった。 「まぁ、ゆっくり考えてくださいね」 そう言うと北園はコーヒーでも買いに行ったのか、オフィスを出て行った。 「ヤバい、どうする。どうすればいい」 今後のことを考えるなら、北園に抱かれた方がいい。でも、もし一回というのが嘘だったら?そうだった場合、それを脅しにまた何度も抱かれるかもしれない。それに出来るだけ北園には抱かれたくない。遼河が頭にいる限り、北園では感じられない気がするし、悲しさが募るばかりだ。しかもこれを遼河に知られてしまったら、抱いてくれるやつなら誰でもいいなんて思われたりして。 どんどんネガティブ思考が募りに募っていく。こんな形で部下に脅される時が来るだなんて、知る由もないじゃないか。 「本当にどうすればいいんだ…」 「何かお悩み事ですか?」 独り言を呟き項垂れていると、頭上から声がした。その声にビクッと肩が跳ねる。今一番現れて欲しくない相手だった。 「遼河…」 顔を上げるとそこには、珍しく出社時間よりもかなり前に来ている遼河の姿があった。遼河は俺の声を聞くと驚いたように目を開いた。 「会社で、遼河って」 その言葉で我に返る。会社では名前で呼ばないというのが決まりだというのを忘れていた。というか、今のは無意識のうちに出た。二人きりだとつい出てしまう。 「あー、すまん。忘れてくれ」 北園のせいだ。朝からこんな混乱させるようなことを言うから。ため息をつくとまた俯き今後の対処法を考え始めた。 「社長…?」 遼河が何か言いたげに声をかけてくる。しかし、それも考え中の俺の耳にはしっかりと入ってこなかった。 「社長、どうかし…」 「っ、!」 声をかけた遼河の手のひらが肩に乗ると衝動的にその手を払い除けてしまった。目の前にいる遼河の表情を見て、ようやく自分がしてしまったことに気づく。最低だ。 「ご、めん」 それだけ言うといたたまれなくなり、その場を離れオフィスを出た。

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