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第15話

青ざめた顔の社長はいつに増しても具合が悪そうだ。こうなったのは自分のせいだと分かっている。だからこそ、先程はムキになって大河内と張り合ってしまった。 俺だって、社長に身体を求めている訳では無い。出来るものなら心までも欲しい。 だって… 『君、いい絵を描くね。うちの会社で働いてみないか?』 あの笑顔を見た日から、俺は社長のことが好きだから。あれから数年。ずっと社長を想い、社長のために仕事も必死に取り組んできた。何としてでも一番のお気に入りになろうと。それも成功していたんだ、途中までは。 あの日、あいつが現れるまでは。 『どうも、面接希望なんですけど。大河内遼河って言います』 大河内はみるみるうちに社長と親しくなった。俺以上に社長と話す機会が増えて行った。気づけば出張の付き添いまでもあいつの仕事になった。俺の仕事は全てあいつに取られた。 そしてある日。 『かーなっとさん。今日もここですか。好きですね』 『遼河もこのの美味さはしってるだろ?』 昼休憩。社長をやっとの思いで見つけた先、目の前に座っているのはあいつだった。しかも普段はしていない名前呼び。あの二人は付き合っているのか。自分の努力は何一つ、叶わなかった。報われなかった。それでも、社長の幸せを望んで俺は気持ちに蓋をした。 それなのに、あの日二人を見て気持ちは変わった。あの様子からして、付き合っているわけではなかった。なんでこんな関係を支持するために自分の気持ちを諦めた。そう思うと苛立ちがふつふつと湧き上がってくるようで、自分を抑えられなかった。 そしてあんなことを。 でも、社長が大河内のことが恋愛的に好きなのは分かる。俺は誰よりも社長を見ていたから。社長が大河内を見つめる瞳のあつさは、恋する瞳だ。だから、せめて身体だけでもとムキになった。気持ちはあいつに向いていたとしても、俺の方が身体の相性が良い場合だってある。そこにかけてみたんだ。社長に求められるようになったら、そんな妄想を日に日に重ねて。 「社長、好きです」 起きないだろうと信じ、小さく呟く。それはまだ苦しそうに気をする社長の吐息にかき消される。頬に手を添えるとそこが一瞬ピクっと揺れるが、起きる気配はない。徐々に顔が近づく。 いいのか? 突然理性が頭をよぎるが、それも本能が押しつぶした。 静かな空間の中、二人の影が重なる。それは酷く情熱的で寂しいキスだった。 顔を上げると何も知らない社長の顔がある。本当に… 「諦められねぇよ…」 涙で目の前が滲む。こぼれる涙の雫が、一粒、二粒と社長のスーツに染みを作った。止めたいのに、止まらない。まるで俺の感情のようで。 「どうか…。どうか、この気持ちに気づかないで…」

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