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第16話
…夢を見ていた。
誰かが名前を呼んでいるような。大きく腕を広げて、自分を待ってくれているような。
俺はこの腕に飛び込んでもいいのだろうか。これが遼河だったら、幸せになれるのだろうか。自分の気持ちをさらけ出して、あいつもそれを受け止めてくれるのだろう。そんな、夢みたいな出来事が、起こるのだろうか。
『社長』
優しい声色が、鼓膜を擽る。でも何故だろう。遼河では無いような、でも好きな人の声だ。頬を撫でる手が割れ物を扱うようで、心が温まる。
『好きです』
誰だ。本当に遼河なのか。信じてもいい?もし遼河なら、どれほど幸せか。
『どうか…___』
何だ。なんと言った。もう一度だけ聞かせてくれ。大事なことが、一番大事な何かを告げられたような気がしたんだ。もう一度だけでいいから、聞こえるように言ってくれ。
夕日の指す時間帯になり、外はもうオレンジ色に染っていた。
「…ん、ここは…」
ふと目を開けると、自分の会社でも家でもない天井が目の前に映し出された。上半身を起こすと頭に軽く痛みが走り、今日のことを思い出す。それと同時に何やらタオルのようなものが頭から落ちた。
「濡れタオル…」
誰かが看病でもしてくれていたのだろうか。そこまで温くなっておらず、程よく冷たさを保っているようだった。わざわざこんな時間まで、良い奴だ。感謝しなければ。
カチャ
ドアノブの回る音がした。例の看病してくれていたやつか。お礼を言おうとまた上半身を起こしドアの方に体を向けた。
すると、そこから出てきたのは思いもよらない人物だった。
「…あ、起きましたか」
「き、たぞの」
なんとそこから現れたのは北園だった。何だか気まずい。まさか北園が看病をしてくれていたなんて、信じられない。もしかしたら今来たばかりで先程交代しただけという話もあり得る。しかし、何故か俺は北園が看病してくれていたのではないかと思ってしまう。北園の手には栄養の詰まっていそうな食品などが入ったコンビニ袋があり、テーブルにはスポーツドリンクなどが丁寧に並んでいる。
「良かったです。かれこれ三時間近く寝てますからね」
「そう、なのか。…看病してくれたのか?」
北園の発言で何となく分かってしまったが、一応確認をとる。すると、北園は小さく頷きながら袋の中からゼリーなどを取り出した。
「心配したんですよ。…まぁ、俺のせいでしょうけど」
北園の口から出た心配という言葉に思わず目が見開かれる。そのあとに告げられた言葉も紛れもなく事実だが。自分であんなことやっておきながら、それも踏まえて心配しているのだから、何がしたいのか分からない。
「あの話、本当に言っているのか?」
もう一度、問いかけるとまっすぐに北園を見つめた。
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