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第17話
「あの話…、一発やるってやつですか?」
少し考えた北園は、ああ、と頷き恥ずかしげもなくそう言い放った。
「本気で言ってますけど?まぁ、社長がどんな判断しようとも、俺は何も言いませんよ。行動で示すのみです」
そういった北園の目には、一瞬も迷いの揺らぎがなかった。そして改めて感じた。こいつは今まで、冗談や嘘なんて一度もついたことがなかったじゃないか。たとえ突拍子のないことを言い出しても全てが本気だった。そういう所が気に入っている場所でもあり、信頼はしていた。まさかこんな形で返されるとは思ってもいなかったことだが。もし断ったら、俺と遼河二人の立場が危うくなる。でも、受け入れたら?もし受けいれたなら、俺が少し嫌な目に合えば済む話じゃないのか。二度目はない、北園は嘘をつかないやつだと改めて感じた今、あの言葉を信用することは出来る。
「…いいよ」
「へ?」
「いいよ。お前に抱かれてやる。一度だけだからな 」
「…いいんですね?」
遼河を危険に晒すくらいなら、俺一人だけが苦しめばいい。それに相手は北園だ。そこまで酷いようにはしないだろう。
北園は自分が言い出したのにも関わらず、俺の言葉に一瞬言葉を失っていた。まさか本当に承諾するとは思っていなかったのだろうか。
「ああ、こうすれば俺だけで許してくれるんだろ?大河内には被害が及ばない」
何度も言うが、遼河に被害を及ばせたくはない。あいつは優秀だし、人付き合いや接待も上手い。このままいけば、将来は有望だ。こんな所で俺が可能性を潰しては行けない。それは北園も同じだ。同等に優秀な社員だ。一度の過ちで済むのなら、これでいい。このネタを世間にばらしたとしたら、俺らはもちろんいずればらした北園も危険が及ぶ。俺には、こいつらの未来を守る義務がある。
「…大河内のため、か」
北園が何かを呟いたがあまりにも小さい声で聞き取れなかった。でも、何故だろうか。聞いてはいけないような、問いかけてしまったら良くないことが起きるような、そんな予感がした。そしてその予感の行方を、俺は後ほど知ることになる。
「じゃあ…、これメモです。この時間に、ここで」
北園は傍にあるメモ用紙を取ると、スラスラと綺麗な字で簡単な指定場所、時間を記入し渡してきた。
今週の土曜日、午後8時。
駅前に集合。
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