20 / 34
第19話
目の前に広がるネオンの色合い。別に今更戸惑うほどのものでもない。ここのホテル街は何度も来ている。ここらは男同士を専用にしたホテルもある。
「社長、どこにします?」
隣にいる北園も緊張した様子はなく、ちらりとこちらを横目に見ながら複数のホテルを見上げている。こっちは緊張と不安しかないというのに、情緒不安定気味だと言うのに。
遼河を守りたい、でも怖い。もうどうでもいい、やることだけ済ませるか。最悪気持ちよくなれるだろ。
色々な感情が頭の中でぐるぐると回っている。もう自暴自棄になっている部分もあるのだろう。別に痛いようにはしないと言っているじゃないか。それならいっそ、楽しんだ方がいい。
…けど。もしハッピーエンドの物語ならば、ここで恋人が助けに来てくれるのだろう。強く抱き締めて、優しく頭を撫でてくれるのだろう。でもそんなの望んではいけない。俺には抱きしめてくれる恋人なんて居ない。優しく頭を撫でてくれる恋人なんて、夢物語。ああ、情けない。考えれば考えるほどネガティブ思考になる。
「社長?」
「…北園、早く終わらせろよ」
こうなってしまえば終わり。自分で制御は付けられない。完全に我を失った俺は、わざと求めるように北園の腕に腕を絡めた。ダメだな、昔からこういう所は直らない。
そして、こういう時に限って最悪なことが起こる。悪運の持ち主だ。
…それすらも、変わっていないのか。
「…か、なと、さん」
目の前に現れたのは遼河。隣には遼河と同い年位の爽やかそうな男。男二人でここに居るってことは、そういう事なんだろうな。普段ならパニックに陥り何も出来なくなるが、今日はもう何でもいい。
「北園、行こう。社員のプライベートに口出ししたらいけないしな」
無理やり北園の腕を引き、その場を去ろうとする。しかしそれは遼河の声によって遮られる。
「要斗さん!待ってください、誤解です!」
その声を聞けばまた気持ちが溢れ出してしまう。せっかく、今の気持ちのままならお前らを見ても、北園に抱かれても平気だったのに。何で一々俺の心を掻き乱していくんだ。
「俺に弁解する意味は無いだろ。今から北園とホテル行くんだよ、早く行かせろ。お前がいなくたって、俺には相手がいるんだから」
言ってやった。これで幻滅しただろ。こんな誰これ構わず抱かれるやつなんだ、って。最低なやつだって思っただろ。俺はどうしてもお前を嫌いになれない。だから、思わせぶりな態度をとるな。お前の方から言ってくれよ。ほら、
「…最低ですよ、社長」
ってさ。
遼河の一言が背中に突き刺さってくる。しかし、振り向かなかった。振り向けなかった。今振り向いたら、泣いてしまいそうだから。
「そう、だよ。お前も新しい相手できてんだろ。俺も北園に変えるから」
そう小さく言い残すともう一度北園の腕を引き、そばのホテルに入っていった。
ともだちにシェアしよう!