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第26話

「北園、いいぞ」 マットを片付け終えるとすぐに北園の居る部屋へと戻った。北園はくつろぐこともせずそこで静かに座っていた。もう少し緩くいってくれてもいいのに。遼河なんていつも…。 そこで思考をシャットダウンする。また考えてしまっていた。危ないな、気が緩むと出てくる。 「あ、ああ。分かりました。お先に失礼します」 案内し終わると、北園は礼を言い風呂場に入って行った。その間に寝室に戻り部屋着を漁る。北園は俺よりも少し身長が高めだが、同じサイズではいるだろう。下着は…、念の為持っていこう。 「北園、着替え置いておくからな」 風呂場のドアを開けると中からシャワーの音が聞こえてきた。浴室へのドアはぼやけているが、そこから見える肌色でやけに顔が熱くなってしまい直ぐに目を逸らした。 「あ、…はい。ありがとうございます」 シャワーの中で聞こえる北園の声を聞きとると軽く頷きそこを後にした。 約五分ほどたっただろうか。風呂場のドアを開け閉めする音が聞こえると、北園がこちらに歩いてきた。普段は後ろに流している前髪が下りているのを見ると、何だか別人のようだ。 「着替えありがとうございます。また洗って返します」 「そんなに畏まらなくていいって。会社じゃないし」 普段と違う姿なのに普段通りの話し方を見れば、どこか安心する。座っているソファーの隣をぽんぽんと叩くと、そこに座るように促す。北園は頷くとその通りに座った。 「あのさ、本当にもっと自然にしてくれていいからな。…恋人、なんだし」 言ってみたものの、やはりまだ恋人という響きは気恥ずかしい。社会人になってから恋人なんて作っていなかったから、久々の感覚がむず痒い。最後の恋人は大学3年の時に別れていた。それからは今の仕事に一直線で、恋人は要らないと思っていたのだろう。 「恋人…」 今恥ずかしいと思っていたばかりなのに、北園が復唱したのを聞けば顔はほんのりと赤らみを始めた。 「恋人っていいですね」 素直な感想とあまりにも無邪気な笑顔に言葉を失う。先程から何かと北園は笑顔を浮かべる。今まで知らなかった顔が急に増えて、どこかもどかしい気分だ。 「もう寝た方がいいよな。俺は今から風呂入ってくるから寝てていいぞ」 初めて使い余していた客室を使う日が来たようだ。客室のドアを開き中に通すと、そこは派手でも質素でもない平凡な部屋。 「じゃあ、俺の部屋隣だから。もし何かあったら言ってくれ」 それだけ言うとドアを閉めようとした。しかし北園に腕を掴まれ留まる。 「おやすみなさいは?要斗さん」 寂しげに言う北園の姿になぜだか胸を締め付けられる。可愛い、そう言いそうになるのを堪え笑いかけた。 「おやすみ、北園」 そういうと満足げに北園も「おやすみなさい」と笑いドアを閉めた。

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