わざとらしく内容を濁らせながら大声で話す遼河。しかし反論はできない。全ては自分で招いた結果。 それでも。それでも、それでも俺が苦しくなっているのはいけないことだろうか。自分から突き放したくせに、早速気持ちが揺れているのは最低だろうか。 「ですよね、社長。これからはちゃんと配慮するんで、怒んないでくださいね？」 わざわざこちらに問いかけてまでくる遼河は、俺の一方的な態度に腹を立てているのだろう。じゃなければ、ちょっとやそっとのトラブルだと笑顔で片付けてしまう遼河が、こんなにしつこくすることも無い。余程俺に対して怒っているのだ。そして、嫌いになったのだろう。 周りの社員達は「全然態度変わってねぇ」「反省の色見えねーぞー」などと、何も知らないからか悪びれもなく笑っている。 ここまで社内に居づらいと思ったのは初めてだ。もう言葉も出ず、遼河の言葉にも苦笑いで頷くしかなかった。 …その時だった。 ダンッ！ 少し離れた場所からデスクを思い切り叩いたような音がした。和んでいたであろう空気も直ぐに険しくなり、みんなの視線が音の方へとむく。その視線の先には北園がいた。 北園は拳をデスクにぶつけたらしい。そのまま立ち上がるとこちらへと向かい、普段のような小さい笑みを作った。 「すみません。耳元でうるさい虫がいたので、黙らせておきました」 それだけ告げると北園はドアを開け、外に出て言ってしまう。 静まり返った社内では、誰一人として声を発しなかった。ただ、普段は見ない、ここ数年働いて一度も見た事のない北園の行動に、静かな怒りに唖然とするだけだった。 数秒間固まった後、ハッとした俺は開かれたままのドアから外へ出る。 「各自企画書の仕上げしておいて」 それだけ告げると一目散に階段を下る。 あんなに怒っている北園は見た事がない。それは多分、俺に対する遼河の態度に苛立ったから。今までどんな時でも、ムカつく取引先の社員にも、クールで冷静な対応をしていた北園が。そんな北園があんなに感情をあらわにしたのだ。 「っ、北園！」 階段を降りていくと、一階と二階の踊り場で北園の姿を捉えた。その背中は普段では感じないような怒りに溢れたオーラが見えるようで、近づくのも怯んでしまう。 「その、あの…」 何かを言おうとしても言葉が出てこない。大丈夫？ありがとう？何を言ったら正解なのか分からない。 「…すみませんでした」 何も言えずに俯いている俺に、俺よりも先に北園が言葉を発した。思わず顔を上げるとそこには公開したような顔の北園がいた。それと同時に驚いたような、動揺したような顔も見られる。多分、こんなに起こったこと自体人生でも数少ないのだろう。