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第31話

自分でも自分を理解できていないような北園の姿に失礼ながら、そんなに真剣に怒ってくれたのかと自意識過剰気味な気持ちが生まれる。 「いいよ、全然。俺自身何も言い返せなくて困ってたから」 「そう、ですよね。大河内の奴、何もあそこまでしなくても…!」 発散したばかりの怒りがまた湧き上がったのか、どんどん表情が険しくなる北園。北園の頬を軽く叩いてやると笑いかけながら首を横に振った。 「遼河がああやって普通に話しかけてくれてるから、俺らが変な勘繰りされる可能性も減った。確かに俺に対する怒り満載の言葉だったけど、それは俺が悪いんだから仕方ない」 真面目な表情を作り話していくと、北園も少しながら納得したように頷く。あの態度はどうかとも思うが、俺が遼河の立場だったらあれくらいイラつく気もする。だからあれを責めることは出来ない。 「あ、あと。…俺はお前が怒ってくれて嬉しかった。自意識過剰かもしれないけど、あれって俺を守ってくれたんだろ?」 確かめるように胸の内をさらけ出すと先程までの怒っていた表情から一変、北園の顔はどんどん赤くなっていった。口元を片手で覆うと真っ赤になった顔のまま俺の頭をポンポンと軽く撫でる。 「…当たり前でしょう。恋人が嫌がってるのを黙ってみてるなんて出来ません」 真剣な表情で、しかしどこか照れながら話す北園にこちらまで照れてきてしまう。まだ慣れない手のひらの感触。聞きなれない恋人という言葉。久々に受け取る溢れんばかりの愛情。全てが新鮮で、何故だか初恋やら初めての恋人やらと過ごす時と同じ気分だ。 「ありがとう」 少し躊躇いはあるものの、精一杯の感謝を込めて控えめに抱きついてみる。相手から来られるのは苦手だろうか。そんなことすらも分からない浅い関係。でも、踏み込んでみたくなった。こいつの、心の内に。もっと深くまで知りたいと思えた。 北園は驚いているのか、言葉を失ったように行き場のない腕をさまよわせていた。やがてその腕が俺の背中に回ると、なんとも説明しがたい暖かな温もりに包まれたのだ。 「なぁ、受けからがっついてこられたいか、自分の方からたくさん可愛がりたいか。お前はどっち派?」 ふと素朴な疑問が生まれるとなにか気になってしまったため問いかけてみた。少しでも北園のことを知りたいと思ってしまう。欲張りだろうか。いや、北園も欲張ってみようと思う、って言った。俺も欲張ってみてもいいんじゃないか。 「そうですね。…要斗さんが相手ならどんなんでもいいです。こうやって要斗さんから抱きついてきてくれるのも嬉しいし、疲れてそうな時はたくさん甘やかしてあげたい」 想像しながら楽しそうに笑う北園の姿に、こちらもつられて笑ってしまう。ちゃんと考えてくれているんだ、という安心感とともに。

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