＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿朝。 「佐藤ー!佐藤蒼っ!一緒のクラスだったんだな」 本を捲り静かに読書をしていると 誰かの話し声が、大変耳障りな音になって聞こえてきた。 「…うるさい。」 思わずボソリと独り言が漏れた。 誰かが俺の机を叩いて、顔を上げる。すると、昨日の面倒な奴が立っていた 「え、あの人格好いいのに。あんな子と……」 「誰？あの陰気なの。見たことないけど」 「何であんなのが」 あちこちから反感を持つような声色でヒソヒソと何かを話す声が聞こえてくる。 さらには、睨みつける様な視線もこっちに向けられている気がした。 ひっそりと過ごしていこうと 思っていたのに。 一番利口な方法は 多分。 「すいません。君とは初対面だと思いますけど、人違いじゃありませんか?」 「え？いや、でも。間違ってないと思うけど………あれ?」 「じゃあ、用事があるので。」 人間の記憶はあやふやなもので こうだと言われてしまえば そう思ってしまう。 思い込みだって記憶だと思うように。 教室を出たものの 行くあてがない。 何処か静かな場所を探して学園内を歩いていたら ふと、思い当たった。 屋上はどうだろうか。 屋上の扉を開けば風が柔く頬を掠め 髪を撫でるようで 陽当りもちょうどよさそうだった。 「ホームルームまで時間あるし、寝るか。」 誰にもバレないように 屋上に設置されている何かの部屋の 階段を昇り、制服の上着をかけて目を瞑ると うつらうつらと眠気が襲う。 眼鏡を外し 眠りに入ろうとした瞬間 ガチャリと扉が開き 悲痛な誰かの叫びが耳に舞い込み瞼を開く。 「痛っ!やめて。」 こんな金持ち学校でもこんなこと あるのだと思いながら 再び瞼を閉じようとするが その声が耳から離れなかった。 「助けて、お願い、っやだ！」 「お前を助けるのなんかいねぇよっ!」 「……おねがっ！」 外した眼鏡を掴み取る。 今、一言だけ言うことがあるならば この眼鏡の度が強すぎて視界がぼやけるってことだろうか。 度は入ってないと、言っていたからきっと間違えて送られてきたのだと当たりをつけて、制服の胸ポケットに眼鏡をいれる。 身体を起こしてその声の方を見ると、ヒョロそうな男が 痛みに声を上げる人の髪を引っ張りあげていて 今にもその人は泣き出しそうにしていた。 「これで、最後だ。」 自分に言い聞かせる様に溜息を吐き出しながら言葉を紡ぎ その男を凝視すれば単独での行動らしく やたらと外を気にしていた。 「こんな目にあいたくないなら、さっさと辞めろよ。」 「………それは、無理です」 「そうか。じゃあ、殴られても文句は言えねぇよなっ?!適当な言い訳でも考えておけよ、補佐さんよぉ！！……ｨｯ!」 飛んでゆくはずの拳は飛んでいかず 飛んでいったのはあの男だった 「え?」 驚きで目を見開いたまんまの その人は、突然のことで言葉を紡げないらしい。 俺とその人の視線が交錯して数秒、俺はその人から視線を逸らした。 男は伸びているようで 反撃をするような事はしてこない。 その人はお礼の言葉を繋げようとするが、その言葉を遮る。 「俺は、あんたみたいなのとは金輪際 関わりたくもない。ようするに、嫌いなんだよ。」 瞳をそちらに向ければ 身体を震わせる小さい身体があった。 瞬間、逃げるようにして背を向ける。 どんどんと遠ざかっていく足音が聞こえた。 「嫌いなんだよ。」 吐き出すようにこぼれた声は、誰にも悟られず消えていく。 胸元をぎゅっと握れば シャラっと音を立てて 首から下げていた2つの指輪のぶつかる音が鳴った。 「大嫌いだ。」