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迷子

「誰、ですか。」 「うーん。迷子かな?」 「……迷子?」 「うん、そう。この学園イヤに広くて毎日のように迷っちゃって。案内してくれない。佐藤くん?」 何で、名前、を……? 「何で?」 「え?何が?」 「何で、名前を知ってるんですか。」 「ん?あぁ、何かそこらへんで。 君のこと探して回っている子がいて そうかな?って思ったからさ」 もしかしたら、違うのかもしれないのにと思っていたら その人は、優しそうな笑みを浮かべながら そこに立っていた。 「呼んでこようか?」 「止めてください。」 「何で?あの子のこと嫌いなの?」 ん?と首を傾けながら 続きを促すその人を見て 何故かするりとその言葉は落ちた。 「嫌いですよ。」 「あの子、いい子そうなのに。」 「だから、嫌いなんですよ。 お人好しすぎて優しすぎるから。」 「優しすぎて、嫌いなの?」 「優しさは《毒(どく)》だ。」 その人は、目線を合わせながらしゃがみ込むと そっかと呟いた。 何なんだこの人とは思いながらも 目の前の人を見つめていたら その人は 突如、表情を変えた。 ピタリと額に掌をあてられる その少し冷たい体温が 心地よくて瞼をゆっくりと閉じた。 「熱い。」 瞼を開けるのもダルく感じて 遠くの方でその人が何か言っている気がしたけれど、瞼は重くて開くことはなかった。 指輪も見つけないといけないと 分かってはいるのに 身体はいうことを聞かず あの指輪だけは あれだけはと思うが 遠のいていく意識のなか、暗く冷たい闇の中へと引きずられていく気がした。

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