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純粋の瞳

雪 side もう、夜遅くに 誰かが蹲っているのを見つけた。 こんな雨の中に 大きな時計の前に倒れてる人影を見つけて 近寄る。 そこには、やっぱり人がいた。 ガタガタと震えながらも 胸元を握るその姿に何故だがは分からないが、寂しさを覚えた。 そう思わずにはいられなかった。 「すごい熱」 こっちまでが哀しくなるような台詞を吐いて、直ぐにその子の瞳の焦点がぶれていった。 その力の抜けた身体を抱き起こして おでこに手を這わせたら、異常な熱の高さに眉をひそめる。懐から携帯を取り出して『黒河』と表示される画面を見て、発信ボタンを押すのを少し躊躇した。 けれど、腕の中で震えているその姿を見て 発信のボタンを押した。 「もしもし」 「……雪か?!何かあったのか?」 「病人がいるんだけど、今すぐ来てくれない?」 「分かった。今どこだ?」 「時計台の近くの噴水の所」 電話をして10分も経たずに 黒河先生は息を切らしながら駆けつける。そして、この子を連れてそのまま学校の保健室に足早に向かった。 あの子が診察されている間 僕は、保健室に常設されているソファに 座って待っていた。 それから間もなく、黒河先生が 閉じられていたベッドのカーテンを 引いて出てきた。 「大丈夫なんですか?その子」 「まぁ、風邪だろうな。明日までに、熱が下がってれば問題はないはずだ。」 「そうですか。それは、良かったです」 「んじゃあ、俺は親に一応連絡しなきゃいけないから外すぞ」 「こんな時間にですか?」 「佐藤の親から何かあったら逐一報告しろって言う連絡がきてんの。つーことで、俺はちょっと出るから 襲うなよ」 「冗談も大概にしてください。黒河先生」 「怒んなよ。」 軽口を叩く黒河先生を尻目に ベッドのカーテンを引くと 寝息をたてて眠る その子の寝顔を見つめる。 「気持ち良さそうだなぁ。」 びしょびしょに濡れた髪は このままだと余計悪化するからと 髪をタオルで拭き、ドライヤーで乾かした。けど、髪の毛に触れてみたら、まだ、少し湿っていた。 その髪を弄びながら もう深夜の2時を回っている廊下から騒がしい音が響いている気がした。 怪訝に思って保健室の扉を開くと______。 ダダダダダと凄い足音を響かせて 誰かが保健室へと突っ込んできて 僕が開けたドアにぶつかって蹲った。 「大丈夫?!君?」 「へんへんひゃいひょうぶ、でふ(全然大丈夫、です)」 「いや、本当に?」 「そんなことより、ここに佐藤がいるって聞いたんですけど」 「いるよ。眠ってるけどね。」 そう言うと、パアっと表情を一気に 変えて何とも嬉しそうな顔で 保健室に入ろうとするその子を 引き止めた。 「待って」 「?」 「君、あの子の何?」 「佐藤の?………えっと、友達です、多分」 「それは、一方通行なものなんじゃないの?」 「一方通行?」 僕はきっとこの子を傷つけてしまうことを 言おうとしてるのかもしれない 『嫌いですよ』 でも、あの子のあの言葉が耳に残ってしまう。 余計なお世話だろうが、どうでもいい。 「あの子は君と違って友達なんて思ってない、いや、それよりもっと言えば他人だと思ってるんじゃないのってこと。」 お互いを傷つけあってしまう前に まだ、赤の他人に戻れる時に 離れたほうがいい。 「………俺もそう思う」 「じゃあなんで?」 ニコリと圧力的な笑みを浮かべるのに その目の前の子は真っ直ぐな視線を 寄越しきた。 あぁ、この子は 真っ直ぐな子なんだろうなぁ ただただ純粋にそう思った。 けれど、その純粋さを受け入れる気は 僕にはないけれど。 「それが、他人の人生を壊すとしても 君はこの子を追いかけるの? この子にとっての優しさは《毒》らしい」 「先輩、俺は___」 僕の言葉に動じもせずに その力強い視線をそのままに その子が何かを紡ごうとしたその時____。 「おい、お前ら。ここから今すぐに出ろ!」 「「はい?」」 その子が紡ごうとした言葉は 黒河の唐突な一言によって遮られた。

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