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第2話

夜7時にはひずるのお父さんが仕事から帰って来る。お父さんとはできるだけ会いたくないと思っているなぎとは、いつもその前にはひずるの家を出ることにしていた。 毎回ひずるはコンビニまでなぎとを送って行く。 今日も、ひずるは自転車をおしながらなぎとはあくびを何度もしながら、なぎとの歩幅に合わせて歩いている。 街灯は付いているけど外はまだ明るい。 セミもまだ鳴いている。この時間になっても昼間の暑さは和らがない。 夏の初めにうるせえと思って聞いたセミの声は何の感情もなく今は普通に聞いている。 チャリチャリチャリと、自転車のタイヤが鳴く音のほうがむしろ耳に付いた。 他愛のない話しが「じゃあな」が出るまで続く。 「なぎとは出したら必ず賢者タイムに突入するよなあ」 ひずるは目を細めて、大あくびをして隣を歩くひずるの肩ほどしかないチビななぎとを見下げて言う。 「なんだよ…お前1回じゃん。オレ2回だよ?…マジ眠い…帰るの面倒い」 ひずるを睨み返して唇を触りながら言うなぎと。 なぎとの唇はひずるの家に寄る前より、少し赤くぽてっとなっている。ひずるに吸われまくって薄皮が一枚キレイに剥がれたみたいにプルンと艶もある。 「なら泊まるか?」 「明日も学校ー。」 くあー…と、またあくびをしながらまともな返事を返すなぎと。 「サボってもいいんじゃね?欠席にはカウントされねえんだし」 「…まあね~……そりゃそうだけど……。」 とか言いながら、ひずるの言葉にちょっと本気でサボる作戦を考えてしまっているなぎとを見つめて、ひずるはなぎとの頭をくしゃくしゃと撫でて、「ジョーダンだぞー」と笑った。 コンビニの看板の灯りが二人の足元を照らし出した。ひずるは自転車を入口近くに止めて、なぎとも一緒にコンビニの中に入って行く。 雑誌コーナーの前で立ち止まると、思い思いの雑誌を手に取り眺める二人。 「あ、そういやひずる合宿いつからだっけ?」 「6日」 「6日ーって、あさってじゃん。んでいつ帰って来るの?」 なぎとは雑誌を棚に戻すと、ひずるの方を向いて聞いた。 なぎとがこっちを向いたので、ひずるも雑誌を棚に戻してなぎとを見て、ん~?と答える。 「多分10日~?か、11か12?」 「なにそれ、わかってないのかよ~!」 ひずるの曖昧な返事に呆れ気味になるなぎと。 わははと笑いながらひずるは雑誌コーナーを離れた。なぎとも後を追うようにそこを離れた。 ドリンクの冷蔵庫をガラス越しに物色して、お菓子コーナーで袋菓子を眺めながら素通りし、最後にアイスのコーナーで二人は立ち止まった。 「お前も食う?」 と、ひずるは自分の分のアイスボックスを手に取り、なぎとの分も取ろうかとなぎとに聞いた。 「いいの?んじゃコレがいい」 と、ラッキーというふうな顔でなぎとは自分ではなかなか買わないパルムを手に取った。 「おま、それ高えやつじゃねーか!」 とか言うひずるの声は無視して、なぎとはニコニコでちょっとお高いパルムをひずるに手渡した。 チッとなぎとを睨みつつもひずるはそれを受け取る。レジに進みズボンの後ろポケットから折り畳みの財布を出して2つのアイスを買った。 なぎとはもう先に外に出ていた。 ひずるも出て来て、二人は入口から少し離れた場所の喫煙所のベンチに腰掛けて、買ったばかりのアイスを食べた。 「今年は盆踊りはムリだな」 「んー…うん。」 よく冷えたパルムは、なぎとのくちびるに気持ち良さそうだ。 外はもう暗い。 ひずるの家を出てからも、こうしてなかなか離れない二人だった。

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