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第4話

帰りは、「明日からの合宿の話でいつもより遅くなる」と、登校時にひずるから聞いていたのでなぎとは一人で先に下校した。 その夜、夕食を済ませてなぎととライン電話をしながら、ひずるは勉強合宿の荷造りをしていた。自分に必要な教科書に辞書や参考書、夏休みの課題も持って行く。それに着替えや洗面道具も必要だ。荷物は修学旅行よりも重い。 なぎとは自室のベッドの上で暇そうにゴロゴロしながら、「荷物多っ!」だの「これ必要かー?」だのとスマホ越しで愚痴っているひずるの声を聞いてウケていた。 「洗顔は入れた?体洗うタオルは?」 「入れた」 「本当に大丈夫?全部入ってる?忘れ物ない?あんたしっかりしてるようで抜けてるから~」 そんなひずるに、なぎとはひずるのお母さんの口真似をしてニタニタと茶化す。 「…全部入れた!つか、やめろ、うっぜ」 荷物の多さと、自分の母親の口真似にうんざりしているだろうひずるの顔が目に浮かぶなぎとは、ニタニタをゲラゲラに変えて電話口で大笑いを始めた。 微妙に似ていてチッと舌打ちするひずるはスマホを床に置いて、なぎとが爆笑している間に旅行カバンのジッパーを閉め部屋の入り口まで運んだ。 またスマホを手にすると、ひずるは今度は机に向かい夏休みの課題プリントを広げた。ペラペラとめくりながら、まだ終わっていないところを確認する。 あと2枚か…と、この状況でも素に戻れるひずるに、 「くくっ……なあなあ、さっきの誰の真似だったでしょうか?」 なぎとは腹を抱えて、一人で楽しそうに先ほどの口真似をなぞなぞにしてひずるに言った。 「さあな」と、なぎとの質問を無視してプリントをし始めるひずる。 「正解は~~、なんと、ひずる君のお母さんでしたー!」 などと、なぎとはひずるのさあなを綺麗に流し、なんだか勿体ぶった正解を発表して、似てね?似てね?と一人盛り上がるが、ひずるは課題に集中したい。 「ハイハイ、ならじゃあな、俺まだ課題やらねえとだから、切るぞー。」 そう言うと、ひずるはなぎととのライン電話を本当に終了させた。 突然切れた電話になぎとはマジかと画面を見やる。通話終了の文字にぷうっとふくれて、仕方なくなぎともラインを閉じた。 「………なんだよ…似てたじゃん」 なぎとはスマホを放って、あ~あ…とつまらなそうに枕に顔を埋めた。 そしてそのままうとうとと、なぎとの思考が空白になった間に、ひずるはきっちりと課題プリントを終わらせたのだった。

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