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第8話

昼過ぎに学校に戻って来た合宿参加者一同は、体育館での解散式を終えて、明日からお盆明けまでようやくちゃんと夏休みとなる。 荷物が多いため親が迎えに来ている生徒もいるが、ひずるは家が近いので歩いて帰る。 ホームルームが終わって、ガヤガヤと下駄箱に向かう。友人たちに手を振り、ひずるは辺りを見渡してなぎとの姿を探した。 三列向こうのなぎとの靴箱に行ってみたが靴は無かった。 「なんだ今日までバイトか…」と納得して重い荷物を肩に掛けひずるは一人で家に帰った。 帰り着いてドカッと荷物を置くと、さっそくスマホの電源を入れた。 なぎとからいっぱいラインが来るのではないかと少しウキウキしながら。 5日分の通知がどんどん入ってくるが、なぎとからのラインは一通もない。 「……そんなもんか~…?」 ひずるはがっかりするというより、ちょっとムッとしてしまう。 まだ仕事中だということはわかっているが、もう帰り着いているぞ、ということでひずるはなぎとのラインに着信履歴を残した。 ふう…と、暇そうなため息をひとつつくと、スマホは諦めて旅行バックの中を片付けた。 夕方になってもなぎとからの連絡は無い。 一体何時に帰って来るのか、今日は帰って来ないのか?とさすがに気を揉むひずる。 チッ…と、落ち着いて居られない。スマホをポケットに仕舞ってひずるは部屋を出る。 階段下で母と出くわしたひずるは、「コンビニ行って来る」と伝えサンダル履きで玄関をあとにした。 なぎとの家の前では、なぎとのおばあちゃんが草むしりをしていた。ひずるは自転車を停めるとおばあちゃんの視線の高さに合わせ、「こんばんは」とイケメンに微笑み中へ入って行った。玄関チャイムを押すとなぎとの妹がドアを開けてくれた。 「みかちゃんこんばんは。お兄ちゃんもう帰ってる?」 ひずるは妹にもイケメンに挨拶し、なぎとが居るか尋ねた。 妹は驚いてほっぺを赤くし、「お、おにーちゃん!ひずるさんー!!」と大声でなぎとを呼んでくれた。 居るのかよ、とつっこんで玄関でなぎとを待っていると、なぎとのママもやって来た。 「あら~!ひずるくん、いつ見てもイケメンね~。なぎとがいっつもお邪魔してごめんなさいね。」 「あはは、こんばんは、お邪魔してます。」 ひずるは極上の笑顔を作り頭を下げきっちり挨拶した。 「あの子なら、昼間からずっと奥座敷に隠ってるから行ってみて」 「ありがとうございます、お邪魔します」 ひずるはサンダルを揃えて脱いで、ママに通され奥座敷へ進んだ。なぎとの家はすごく広い。一階のおばあちゃんの部屋とは別にお座敷だけで5部屋もある。 縁側の廊下から見える庭は和風で、お盆のためにとても綺麗に手入れされていた。 「なぎとー、ひずるくんが来てくれたわよ」 なぎとに一声かけると、スラッとママは障子を開けた。 「なぎと」 なぎとと会えたひずるはふふっと安心して、背中の障子を無音で閉めた。

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