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たくさんの虫を虫籠に詰め込み、来た時と同じく自転車に二人乗りで、今度は弛い坂道を下っていく。 「あ、喉乾いたからコンビニ寄る。拓也は荷物見てて」 「おう。俺コーラ、赤な」 「おけ」 二人分の飲み物を買って拓也が待つ店舗の裏側へ歩いていく途中、柄の悪い大柄な男が彩斗の前に立ち塞がった。 「あれー?こんな時間に買い物ー?」 更にもう一人が彩斗の後ろから声をかける。 「こんな時間に危ないって。俺らが送ってくよ。大丈夫、送ってくだけ」 右手の車道からはスモークがかかったワンボックスカーが静かに幅寄せしてきて逃げ場がない。 コンビニのカメラの死角に入った途端に迫ってくるのはタチが悪いが、本当に危ない奴等なら、悠長に声を掛ける前に、とっくに車に連れ込まれているだろう。 男たちからはアルコールの臭いがした。 「目ぇ腐ってんの?俺、男だけど」 彩斗は線は細いが背は平均的な男性のそれだ。 ユニセックスな髪型や服装を好むので、遠目からは女性に見られることもあるが、この至近距離で見間違えるのは、辺りが暗いからか、男たちが酔っているからか。 「またまたぁー。君キレイだね、よく言われない?」 「背ぇ高いね。モデルさん?モデルさんでしょ?」 「やっべー、ちょータイプ。ま、立ち話もなんだから乗りなよ、ね?」 そう言って正面の男が彩斗の腕を掴み、もう一人が横から車に押し込もうとする。 下卑た笑みと不躾な手が気持ち悪い。 「おい、離せよ!」 「まあまあー」 「だーいじょうぶだからさぁー」 あ、マズイ。 彩斗がそう思った時、車輪が回る音がして、物凄い勢いで何かが衝突し横の男が吹っ飛んだ。 ドッと鈍い音がして後ろを振り返ると、失神した男の腹に自転車の前輪をめり込ませる、鬼の形相をした拓也がいた。 「汚ねぇ手で!彩斗に!触ってんじゃ!ねぇよっ!」 言葉と共にぐりぐりと全体重を前輪に乗せて腹を圧迫したら、男は噴水のように吐瀉物を撒き散らした。 「てめぇ!なにしやがる!」 もう一人が拓也に向かって殴りかかる。 拓也は自転車を放り出し男の打撃をかわすと、足を引っ掻け転倒させて馬乗りになった。 男の二の腕を膝で押さえ込んで動きを封じる。 「くそっ!離せ!」 「ああぁ?彩斗が離せって言ったとき、お前らは離したか?離さなかったよなぁ?自分からは与えないのに他者から求めるのはオカシイよなぁ?なぁ!?なぁっ!?」 「ひぃっ!」 拓也は近くに転がった虫籠から無数の虫を鷲掴みにし、怯える男の口にそれを捩じ込んだ。 「~~~~~~~ッ!!!」 悲鳴にならない悲鳴が響く。 「アハハ、アハハハハ!最高だなぁおい!!ざまぁみろ!!」 笑いながら拳を鼻に叩き込む。 異変に気付いた運転席の男が降りてきて惨状に驚いている隙に、拓也は倒れた自転車を素早く拾いハンドルと荷台を掴んで力一杯振り回し後輪で男のこめかみを殴り付けた。 「彩斗を、奪うやつは、皆死ねっ!死ねっ!死ねっ!」 倒れた男に何回も何回も自転車を降り下ろす。 恐ろしく猟奇的な光景だった。 「お、おい、拓也もうやめろ。それ以上はヤバイって!」 彩斗が声を掛けるとピタッと攻撃をやめ、何事もなかったかのように無邪気な顔で笑い掛ける。 「……ああ彩斗、無事でよかった。行こうぜ」 「…………ははは、お前、イカれてんなぁ……」 地面に転がった三人の男を残し、何事も無かったかのように拓也の自宅に向かった。

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