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第四夜

『俺、結婚することになったんだ』  頭の中を同じセリフがぐるぐるまわっている。  普段なら兄さんを玄関まで見送るのに、今日はそれが出来なかった。平静を保つことで精いっぱいだったから。  兄さんが去った一人ぼっちの部屋で、僕は呆然自失のままへたり込んでいた。  結婚? 誰と? なんで? いつから?   この恋がかなうだなんて、そんな夢物語を思い描いていたわけじゃない。けれどこんな終わり方ってあるだろうか。  テーブルの上のスマホのバイブ音が鳴った。光る画面に並ぶ「兄さん」の字に勝手に手が動いて、連絡用のアプリを開いた。 『顔色悪かったけど体調大丈夫か?  今夜も暑いから、ちゃんと水飲んで寝るんだぞ』  出会った時からこうだ。僕の保護者面をしたがる。  大の大人の男が、可愛いウサギのスタンプを使うなよ。 「……好きだなあ」  不釣り合いで他愛もない画面ごと、たまらなく愛しい。  この身体は、心は、命は、兄さんにすくわれた。  ――できるだろうか。 六年越しのこの恋を、たったの一か月で諦めなくてはならないなんて。  

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