51 / 259

「正真」19

 泰明は最後まで良い顔をしなかったけど、僕は入部することを何とか許してもらうことが出来た。僕に何を言っても折れないと思ったのかもしれない。泰明の事も気にはかかるが、神近くんに恩がある以上はさすがに入部しないとは言えなかった。  泰明を下駄箱で見送った僕は、これからは自分の部室にもなる別棟二階の角部屋へと足を向ける。  扉に手をかけた僕は、開こうとして拍子抜けしてしまう。扉には鍵がかかっていて開かないのだ。  きっと鍵は神近くんが持っているのだろう。二回とも僕がここに来た際は、神近くんが既にここに来ていて、鍵の事なんか考えもしなかった。  そこで僕は遅ればせながら、神近くんの連絡先を聞いていないことに気がつく。色々な事が重なってしまって、そこまで気が回らずにいたのだ。  仕方なく泰明に電話して、神近くんの連絡先を聞こうとスマホを取り出す。そこでふと、階段の方から足音が聞こえ、僕は視線をそちらに向ける。  青のネクタイの生徒が、反対奥の部屋に向かって歩いていく姿が目に留まった。この学校は学年ごとにネクタイの色が違っていて、僕は二年生なので赤のネクタイだ。三年生になれば緑色に変わる。  一年生ならもしかしたら神近くんの事を知っているかもしれないと、僕は駆け足で近付き声をかけた。 「ねぇ? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」  彼が振り返ると訝しげな表情で、「何でしょうか?」と答えてくれる。

ともだちにシェアしよう!