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「訪問」13
「……うん。大丈夫。いろいろありがとう。お大事にね」
僕はぎこちない笑みを浮かべて、鞄を手に取る。神近君にはこれ以上は甘えるのは良くない。幻滅されるのも嫌だし、幻滅するのも嫌だった。
神近くんに対する教師や後輩の言葉を思い出し、僕は唇を強く噛み締める。せめて僕だけでも、神近君の味方でいたい。
それに、神近君は病み上がりだ。この間のこともあって、僕は送って欲しいなんて口には出来ない。二度の失敗はしたくなかった。
「外にまだいるかもしれませんよ」
玄関で靴を履く僕の背に、声をかけてくる神近君に「うん」とだけ返事をする。恐怖のあまり心臓が跳ね上がり、思うように口を開けそうもなかった。
微かに震える手を伸ばし、ドアノブに手をかける。冷や汗が背中を伝い、どんなに虚勢を張ったところで根本の臆病は顔を出してしまう。
それでも手に力を入れてドアノブを下げようとしたところで、横から手が伸びて僕の腕を掴む。
「うわっ!!」
驚きのあまり僕は後ろに仰け反ると、背中に反発を感じ仰ぎ見る。神近君の不機嫌そうな顔が間近にあり、再度心臓が跳ね上がってしまう。
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