87 / 259
「訪問」25
「なんでそんな事で怒るんですか? 別に冗談言っただけじゃないですか」
呆れたようにため息を吐き出す神近くんを、僕は振り返って睨みつける。
「神近くんさぁ、もし僕が神近くんのことを好きだったらとか考えないの?」
「えっ?」
「いくら馬鹿な僕だって、好きでもない相手にそんな何回もキスさせない。いくらあんな状態だったからって、本当に嫌だったら突き飛ばしたり抵抗だってする」
口を開けば涙が零れ落ちていく。せっかく堪えていたのに、ボロボロと涙がこぼれ出して止まらなかった。
「神近くんは口も悪いし、生意気な態度を取る人だって事は分かってる。でも、本当は優しい事も知ってる。でも……さすがに僕だって許せないことだってある」
喉が締め付けられたように苦しくなり、僕は小さく嗚咽を零す。
「……先輩」
神近くんが近づくなり僕を抱き寄せる。なんのつもりか知らないが、これも冗談だなんて言われたら、とてもじゃないが僕は耐えられない。
神近くんの体を押しやろうとすると、腕を掴まれあっさり押し倒されてしまう。
「離してよ! 君の気持ちが分かった以上はもうこんな事したくない!」
僕は必死にもがくも、神近くんの手は一向に緩まない。
ともだちにシェアしよう!