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「訪問」26
「先輩。俺は別に先輩のことを好きではないとは、言ってませんよ」
「だからなに? だったら嘘だなんて言わなきゃいいじゃないか」
僕は声を荒げて、神近くんを睨んだ。神近くんは不意に苦し気に顔を歪める。
「さっきのは……謝ります。すみません。まさか先輩が俺に気があるだなんて、思ってもみなかったので……」
気まずそうな表情の神近くんが謝罪の言葉を漏らしたことで、僕の溜飲が少しだけ下がる。
「神近くんはもっと人の気持ち考えた方がいいよ。僕だけじゃなくてさ、みんな神近君を心配してるんだから」
顧問の門屋先生も後輩の子も少なからずは神近くんの事を心配していた。泰明だって、あんだけ揉めても気にかけていたのだ。そのことを神近君に伝えると、神近くんは辛そうな表情を浮かべて僕から離れていく。
僕はゆっくり体を起こすと、玄関に視線を向ける。さっきまであんなに怖かったのに、今はそれ以上に悄然とした気持ちが押し寄せていた。
咄嗟のことだったとはいえ、僕は神近くんに好きだと告げたも同然の事を口走ってしまったのだ。
「先輩って……男が好きなんですか?」
僕は驚いて神近くんの顔を見つめる。神近くんは茶化す様子もなく、ただ唇を噛み締めて俯いていた。
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