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「嫉妬」13
部室の隣の部屋は、美術部の物置になっていて画材道具が大量に置かれている。
絵の具の匂いで満たされた、蒸し暑い部屋の中。僕は机に腰かけ、腕を組んで仁王ちしている泰明を前に視線を俯かせていた。
「……で、どう言う事なんだ?」
泰明の一言に、僕はさっきまでの神近くんとのやり取りを省いたストーカー女の話だけをしていく。
僕がビビって部屋の隅に逃げたら、神近くんが心配してそばにいてくれただけの事だと、あの場面については一部脚色を施す。
「なんで俺に言わないんだ?」
「えっ?」
「あいつのこと……好きなのか?」
驚いて僕は泰明を凝視する。苦虫を潰したような表情の泰明に、やっぱり言わなくて正解だったのだと僕は小さく嘆息する。泰明だって人間なのだから、嫌いな人間の一人や二人いて当然だ。
「後輩として好きだよ。そんなに悪い人じゃないからね」
「そうじゃなくて、恋愛対象として好きなのか?」
食い下がる泰明に僕は、本当に保護者みたいだなと苦笑いを零す。
「……そんなわけないじゃん。まだ知り合って一ヶ月も経ってないのにさ」
「……そうか」
ホッとしたように溜息を吐き出す泰明に、僕はこれは時間がかかりそうだなと内心ゲンナリしていた。
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