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「計画」3

「兄だけは信じないでください」  俯いたまま、神近くんが絞り出すような声で言った。  僕は思わず息を飲む。兄弟がいる事すら知らなかったし、神近くんが思い悩む理由が兄なのかもしれないと分かったところで、どう答えていいか分からない。  僕も姉には頭が上がらないし、厄介なうえ怖いとも思っている。だからといって、顔を合わせるのを躊躇うほどに仲が悪いというわけではなかった。  黙り込む僕をどう思ったのか、少しだけいつもの調子の声にも戻った神近くんが「で、先輩の話ってなんですか?」と言ってきた。 「……あのさ、泰明に僕たちが付き合ってる事、ちゃんと話そうと思うんだよね」  神近くんの視線がやっと僕に向けられる。 「あんなに言われるの嫌がってたのにですか?」  神近くんの少し呆れたような口調には、さっきまでの陰鬱さは消え去っていた。 「だって、急に言っても戸惑うだろうし……泰明は僕の親友だからさ……」  さすがに泰明が神近くんをあまりよく思ってはいないことを、僕の口から言うのは憚れた。 「向こうはそうは思ってないでしょうけどね」 「えっ?」 「あれは絶対に先輩に恋愛感情がありますよ」  乗せられていた神近くんの冷たい手に、ギュッと力がこもる。

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