159 / 259

第六章「帰省」

「神近くんも食べる?」  ポッキーの袋を差し出す僕に、神近くんの冷たい視線が突き刺さる。 「遠足じゃないんですから、はしゃがないでください」  神近くんの実家に向かう新幹線の車内。たかがポッキーごときで、目くじらを立てる神近くんに僕は小さく溜息を吐き出した。  神近くんは朝から暗い表情で、口数もいつも以上に少ない。そんな事もあって僕は、少しでも神近くんの気が紛れるようにとひたすら話しかけていたのだ。  僕だって内心はすごく緊張しているし、不安でいっぱいなことには変わりない。ポッキーをがむしゃらに食べているのも、別に糖分を欲してとかではなく、少しでも他の事で気を紛らわしたかったことが大きい。  しょぼんと手を下ろす僕に「わかりました。もらいます」と言って神近くんが、僕の手から袋を奪い取った。 「ああっ! 全部食べる気?」 「食べないですよ。先輩とは違って食い意地はってないんで」  一本だけ抜くと、「ほらっ」と言って突き返してくる。 「丁寧に扱ってよ。折れちゃうじゃん」  むっとする僕に神近くんは「子供じゃないんですから」と呆れたような溜息を吐き出した。  案の定、何本か折れてるポッキーを口に運びつつ、僕は車窓の外に視線を向ける。都内から離れるにつれて、周囲の景色が変わりつつあった。

ともだちにシェアしよう!