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「帰省」2

 青々と生い茂る緑の山々。橋を渡れば下を流れる河が、日に照らされて水面がキラキラと瞬く。長閑な田園風景が眼下に広がると、都会の無機質なビル群に比べて落ち着いた雰囲気が漂っている。気休め程度だけど、気持ちが落ち着いていくように感じた。 「田舎に住みたいって人の気持ちが、少し分かる気がする」  都会生まれ都会育ちの僕は、親戚の家も都内から少ししか離れていない。そのせいか、田舎の自然に溢れている光景をあまり目にすることがなかった。こんな風に新幹線に乗って、どこかに遠出するのも中学生ぐらいの時以来かもしれない。 「呑気なもんですね。田舎なんて何も良いことないんですよ」 「そうなの?」 「住んでた人間が言うんだから、間違いないです」  確かに住心地抜群だったら、神近くんも地元の学校に進学していただろう。でも原因は田舎どうこうよりも、家族間の問題のように思えてならない。 「ふーん。じゃあ地元に戻る気はないの?」  何気ない風を装いつつも、僕の心臓は変にバクバクと激しく鳴っていた。 「……それはまだ分かりません。大学はこっちの予定ですが」 「そっか……将来の夢とかあるの?」 「……先輩と一緒にいれれば何だって良いです」  僕は驚いて神近くんを穴が空くほど見つめる。冗談ですといつもみたいに揶揄ってくるかと思いきや、憮然とした表情で椅子の肘に頬杖を付き、どこか遠くを見つめているだけだった。

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