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「帰省」3
新幹線で二時間、電車に揺られる事一時間。辿り着いた場所はまさに田舎といった様相で、周囲が山々に囲まれ建物が何もない光景が広がっていた。降り立った駅舎もなかなか風情がある。
「父が迎えに来る予定になっています」
少し強張った口調の神近くんは、緊張した面持ちで顔を顰めている。僕も最初の時よりも口数が減っていて、ガッチガチに緊張していた。
照りつけるような暑さと、都会とは違う柔らかい風に当たりながら無言で立ち尽くす。しばらくすると一台の車が駅の前で停車し、軽くクラクションを鳴らされる。
神近くんの表情が愕然としたものに変わり「……どうして」とぽつりと呟く。
「えっ?どうしたの?」
僕の質問が耳に入っていないのか、神近くんが狼狽えてジリッと後退る。そんな姿を今まで見た事がなく、僕まで戸惑ってしまう。
「父が来るはずが、兄が来てるんです」
なかなか車に近づこうとしない神近くんに痺れを切らしたのか、運転席から若い男性が降りて来る。すらっとした体躯に合わせた、白のシャツに黒のパンツ。柔らかい表情には大人な雰囲気が漂い、神近くんに負けず劣らずの整った顔立ちをしていた。優しげな目元と緩く上がった口元が、まさに好青年という名に相応しい。
「久しぶりだね、智代」
優しげな口調で微笑む青年に、僕は呆気にとられてしまう。もっと底意地の悪そうな兄を想像していたのだ。それが全くの見当違いで、こんなに優しそうなお兄さんなのに何故と疑問が湧き上がってしまう。
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