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第七章「虚像」
お兄さんの部屋に案内された僕は、緊張した面持ちでテーブル越しに向かい合っていた。
テーブルの上にはさっきまで、神近くんの部屋に置いてあったお茶やお菓子が置かれている。手をつける気には到底なれず、お兄さんに勧められても愛想笑いを零すばかりだ。
「そんな畏まらなくたって良いよ。もっと気楽に話をしよう」
緊張している僕を見かねてか、お兄さんが優しく諭してくる。
「はい……」
「あっ! そうだ! 智代の写真見るかい?」
お兄さんがそう言って立ち上がると、棚から水色のアルバムを取り出して机に乗せる。
「でも……さっき神近くんに見せたくないって、言われちゃったんで」
本人がダメと言っているのに、勝手に見ても良いものなのか。僕は伺うように向かいに腰を下ろしたお兄さんを見つめる。
「本人に言わなきゃ大丈夫だよ。だから秘密だよ。それにこれは、僕のアルバムだから問題ないだろう?」
そう言ってさっさとページを開いてしまう。目を逸らすのも変だし、僕は渋々開かれた
ページに視線を落とす。
入学式と書かれた看板が校門に立てかけられ、その横に少し緊張した面持ちの少年。その隣には赤ちゃんを抱えた女性が立っていた。
「これが智代。まだ生まれて半年ぐらいかな」
そう言ってお兄さんは次々に指を差していく。
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