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「久遠」3
「お世話になりました」
僕は神近くんの家族に頭を下げて、お礼を述べた。
「また、いつでもいらっしゃい。今度はもっとゆっくりしていきなさいね」
お母さんが笑顔で僕の肩に手を置き、僕は笑顔でそれに答えた。
「智代はもっとこっちに帰っておいで。ここは君の家なんだからね。佐渡君と一緒でも、もちろん構わないからさ」
お父さんも神近くんの背を叩いて言う。僕はハラハラしつつ、神近くんに視線を向けると思いの外、神近くんは「分かった」と言って頷いていた。
来た時よりもいくらか、険悪な雰囲気がなくなっていたことに僕はホッと胸をなでおろす。
「僕が送っていくよ」
お兄さんがそう言って颯爽と運転席に乗り込んでいく。途端に、僕の心臓が跳ね上がった。さっきの和やかな気分から一気に、氷点下まで落ちたように不安が胸を覆い尽くしてしまう。ちらりと神近くんを伺うと、やっぱりと言うべきなのか表情が少し強張っていた。
だからといって、断るのも不自然過ぎる。僕たちは両親に別れを告げると、車のトランクに荷物を詰め込んで後部座席に乗り込んだ。
「何度もすみません……忙しいのに」
形式的なお礼をもつれそうになる舌で、僕は何とか言い切った。
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