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「久遠」13
「そういえば、神近は?」
泰明の問いかけにどう答えれば良いのか分からず、僕はただ首を横に振った。
「どういうことだ? こんな状況なのにアイツは知らないのか?」
「……言ってない」
「なんでだ?」
泰明が疑問に思っても不思議ではない。普通だったら真っ先に恋人を頼るだろうし、それにさっきまで一緒にいたのだからなおさらだ。
「……心配かけたくなくて」
震えた声で嘘を吐く。喉が締め付けられたように苦しくなって、涙が再び零れ落ちてしまう。神近くんに傍にいて欲しいという気持ちもあったけれど、どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
「何があったんだ? アイツとなんかあったのか?」
泰明の問いかけに、僕は必死に首を横に振る。自分の中でも整理がついていないのに、泰明にどう説明したらいいのか分からなかった。
「佐渡」
名前を呼ばれて僕は顔を上げ、目の前に座っている泰明に視線を向ける。
「俺は言ったよな。佐渡に辛い思いさせるなら、意地でも引き離すって――」
「えっ……」
「お前が嘘を言ってるのぐらいわかる」
そう言いつつ、泰明はスマホを取り出すと電話をかけ始めてしまう。まさかと思って呆気に取られていると「今すぐ生徒会室に来い。来ないなら佐渡と別れてもらう」と言うなり泰明はスマホを机に置いた。
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