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第4話

 登山道は当たり前ながら真っ暗だ。新月だから、なおさら闇が深い。こりゃ小学生が遠足で登るような山だって、夜に登ったら死ぬだろ。幸司は道連れがほしいだけなんじゃないかと背筋がぞっとした。 「あ、そうだ。家から懐中電灯持ってきたんだよね。落ちたら洒落にならないし」  幸司は屈託無い顔で、くしゃりと笑った。懐中電灯のスイッチを入れ、足元を照らす。 「幽霊と二人っきりってだけで、すでに洒落になってないよ……」  俺の呟きはなんのその。幸司はどんどんと山頂目指して登っていく。  しばらくすると、俺は息も絶え絶えになってきた。 「幸司、ちょっと、待って! 幽霊はぷかぷか浮かんでるだけで楽かもしれないけど、俺は生身の人間なんだよ。そんなにハイペースで登れないってば」 「え? 俺、浮かんでるように見えてた?」  自分がいっぱいいっぱいで、幸司の息が上がっていることに気付かなかった。幸司の足はしっかりと地面についている。 「幽霊の定義って、一体。汗かいてハァハァ言ってる幽霊なんて聞いたことないよ」 「ちなみに、壁のすり抜けもできませ〜ん。唯一できるってわかったのは、幽物離脱」 「幽物離脱? 何、それ」 「たとえば、この懐中電灯。触ってみて」  幸司に促され、差し出された懐中電灯に手を伸ばす。 「えっ」  幸司の体に触った時と一緒で、手にはなんの感触もなかった。 「家にあった懐中電灯を持っていこうとしたら、元々の懐中電灯はそのままで、ニューって抜けたの。幽体離脱みたいに。でも、体じゃないから幽物離脱だろ」  足をくっきりと生やし、汗をかきながら山に登る。ケラケラと笑う幸司は、俺がイメージしていた幽霊にはほど遠かった。

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