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第6話

───ふっと意識がはっきりして、目が覚めた。 部屋の中はすっかり暗くなっていて、慌ててスマホを手に取ると、さっきよりひどく頭が痛む。 「……なんだ。まだ7時か……」 夢を見ていたせいか長く寝ていたような気がしていたが、実際は3時間も寝ていなかったようだ。 体はますますだるくなり、熱が上がっているような気もするが、体温計を取りに行くのもしんどいのであきらめる。 ごろっと寝返りをうつと、背中まで汗をかいていたようで気持ちが悪いが起き上がれない。 こんなとき独り身はつらい。 看病してくれる相手がいてくれたら、どんなにいいだろうか。 そう思ったとたん、あいつの……葵の顔が浮かんだ。 ───長谷川のせいだ。 あいつが余計なことを言うから、今になって思い出してるんだ。夢に出てきたのだって、そのせいに違いない。 もう、2年会ってない。 今頭の中に浮かぶのだって、2年前の葵の姿だ。 今はもっと、そう……太ってるのかもしれないし、痩せているのかもしれない。髪型だってきっと変わっているだろう。それに……新しい恋人だっているかもしれない。 きっともう、俺の知ってる葵じゃない。 葵じゃない……のに。 もちあげるのもだるい腕で携帯電話を持ち直すと、メールを作成する。 『風邪ひいて、熱が出た。  会いたい』 そっけない……短いメールを作り、いざ送ろうとして手を止める。 これ、送るつもりか? 2年も音信不通のやつに? 看病に来いとでもいうつもりなのか? そんなの来るはずがない……というか調子が良すぎる。 自分が病気の時には会いたいだなんて。 大体、葵に新しい相手がいるのなら、迷惑以外の何物でもないだろう。 ………自分のしていることが情けなくなって、そのままシーツの上に携帯電話を放り投げた。 何てことだ。俺としたことが長谷川の言葉に振り回されている。 こんなときは寝るしかない。 ただの風邪だ。寝てれば治るはずだ。 またもや布団をかぶってぎゅっと目をつぶっていると、ずるずると眠りの沼に足をとられていった。

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