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第13話
二人を中に入れてやると、ベッドの横に置いてあるコタツに座らせた。
そろそろ寒くなる頃だと出したのはいいが、もともと狭い部屋がより狭くなってしまうから困りものだ。
葵は「どうぞ」と言って二人にお茶を出し、そのままキッチンに向かおうとしたので、腕をつかんで引き止め、座らせた。
長谷川はそんな俺たちの様子を何やら面白そうに眺めているし、一緒に来た男の子はさっきの声が嘘のように、居心地悪そうにちょこんと座っている。
誰も何にも言わず、変な沈黙が部屋を包む。
中に入れたはいいが、何をどう話せばいいのか……
困っていると長谷川のほうから「そちらの人は?」と、きっかけを作ってきた。
「……ああ、その……後輩だよ。大学の後輩で、内村っていうんだ」
「………内村葵です。いつも先輩がお世話になっているようで……わざわざお見舞いも、ありがとうございます」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、さっきはお騒がせしてすみません。田中君と同じ会社で働いています、長谷川啓吾と申します。こちらは高瀬悠希といって……」
3人が改まって自己紹介をしあう間、長谷川が連れてきた子をじっと見つめる。
………どこかで会ったことがある気がするんだよなあ。
いったい、いつ会ったんだ?頭をフル回転して考えていると……
「──────あー!!」
3人がびっくりして俺を見るが、それどころじゃない。
「君もしかして、先週、長谷川の家の前でずっと待ってた子じゃないか?!」
そういえば先週末、泥酔状態だった長谷川を引っ張って家まで送ってやったとき、ドアの前で待っている男の子が一人いた。
酔っぱらった長谷川の相手にうんざりしていた俺は、長谷川を部屋に押し込むと、その子にあとを任せてさっさと終電で帰ったんだった。
「───えーと……はい。それ、僕です」
「やっぱり!やっと思い出した……あのときは悪かったね、さっさと帰って。こいつの世話、めんどくさかったでしょ?」
「いえっ、そんな!……あの……気にしないでください。僕がしたいことをしただけですので……」
そう言って高瀬君とやらは、ちょっと恥ずかしそうに下を向いた。
したいこと……?
したいことって、酔っぱらいの世話が?それとも、失恋男をなぐさめることが?
何だか腑に落ちないが、そこまで考えたところでふと思い出した。
「───あ、思い出した。そういえばお前、約束が違うじゃねーか」
「は?約束?」
「そうだよ。見舞いに来るときは必ず、自慢の彼女を連れて来いって言っただろう?」
確かにかわいらしい顔をしてはいるが、連れてきたのはどう見たって男だ。
約束が違う。
「勝手になかったことにするなよな!本当だったら中には入れないんだからな!」
ピシッと人差し指で、長谷川の顔を指さしてやる。
しょうがない奴だな。勝手に約束をなかったことにするなんて。
勝ち誇ったように長谷川の失敗を指摘してやったのだが……
「約束は破ってないぞ」
長谷川は不敵な笑みを浮かべて言い返してきた。
「は?……だって───」
俺の言葉を最後まで聞かないうちに、長谷川は高瀬君の腕をつかんで自分のほうへ引き寄せると、高らかに言った。
「───この子、俺の恋人……ちゃんと自慢の恋人を連れてきたぞ」
「「「…………え──────!!!」」」
俺と葵と……なぜか高瀬君まで、大きな声で驚いた。
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