15 / 243

第15話

15 「───ああ、疲れた……俺、寝るわ」 あれから長谷川たちは「病人に無理はさせられないから」と、高瀬君の涙が止まったところでさっさと帰って行った。 デレデレと幸せそうな顔をした二人を見送ってドアを閉めると、どっと疲れが襲ってきた。 熱、また上がった気がする…… ベッドに潜り込むと、葵が毛布をかけ直してくれる。 「───お前、今夜はどうすんの?」 泊まっていけばいいよ。 まだ一緒にいてほしいんだ。 明日も一緒にいてくれよ。 元気になったらさ、話したいことがいろいろあるんだ。 ……言いたいことはたくさんあるのに。 「そろそろ終電の時間だぞ。電車できたんだろ?」 口から出るのはそっけない言葉。 これは風邪のせいじゃない……素直になれない俺の性格のせい。 こんなんだから振られるんだよ。当たり前だ。 「うん。大丈夫……先輩が寝たらちゃんと帰るから」 『ちゃんと帰る』なんて、望んでいるわけじゃないのに、「そうか」なんて返事をしてる。 ……自分で自分が嫌になる。 この再会だって、自分が努力したわけではない。たまたまメールが送られただけだ。 そして、そんなメールに葵が動いてくれただけだ。 このまま葵を帰せば、もう二度と会えなくなるだろう───そんなのは絶対に嫌だ。 何か言えよ、俺。 素直になれよ。 もう後悔したくないんだろ。 言え。 言えよ。 言えって! 「───おやすみ、先輩」 何も言えないまま、部屋の電気が消された。 最後のチャンスを、俺は棒に振ってしまった。

ともだちにシェアしよう!