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第18話

昼食を食べ終わると、次第に時計が気になりはじめた。 葵は一体いつ帰るつもりなのか……1時か……2時か……時計をちらちらと見てしまう。 当の葵はすることがなくなったのか、もってきたバッグから文庫本を取り出し、静かに読み始めた。 本を読み始めたら夢中になって、周りのことが見えなくなってしまうのは、昔と変わらない。 ベッドからこっそり俺が見ていることにも、気づいてないんだろうな…… 昔はそれがちょっと悔しくって、わざとちょっかいを出しては邪魔をしたけど……今はただ、切ない。 「───んー……」 閉じていた瞼をもちあげると、部屋は翳っていた。 ───ああ……眠ってたのか…… 耳を澄ますと、台所からトントンという包丁の音が聞こえる。美味しそうな匂い……コンソメ?……もする。 ───今、何時だ? 時計を見ると、4時を過ぎていた。葵が夕食の準備をしてくれているのかもしれない。 ぼんやりと天井を眺めていると、葵がキッチンから戻ってきた……肩からバッグをかけて。 「───先輩、僕、そろそろ帰ります」 「……………」 「夕飯にはリゾット作ってあるから、おなかがすいたら温めて食べてね。熱下がったからって、無理したらダメだよ」 「……………」 そう言うと、葵は玄関に向かう。俺も慌ててベッドから飛び出ると、後を追いかけた。 玄関で靴を履いていた葵は、立ち上がると俺の方を振り返って…… 「───それじゃあ、おだ…」 「あのさ!」 ───お別れの挨拶なんて、最後まで言わせてたまるか。 葵はきょとんとした表情でこちらを見つめる。 もうこれで、会えなくなるなんていやだ。これが最後の別れになるなんて冗談じゃない。 「……看病してもらって、本当に助かった……だから、さ……あの、お礼がしたいんだよ」 「……………」 「今度、飲みに行こう!俺、おごるからさ……あ、飲みじゃなくても、食事とかでもいいし……」 「……………」 葵から、返事はない……というか反応がない。ただじっと、こちらを見ている。 ───そこから何にも感情が読み取れない。 それに、俺は焦る。焦って変な汗が出てきて……ただひたすら、一人でしゃべってる。 「……あのさ、2年も空いちゃったけどさ……また、前みたいに会いたいんだよ……」 「……………」 「ほら……あの……友達?……みたいな?……もともと俺たち、先輩後輩の関係だし……さ……」 「……………」 「……………」 ついには二人とも、黙ってしまう。 玄関には重い空気が満ちて息苦しい。 ───いったいどのくらい時間が経ったのか分からくなった頃、葵が重い口を開いて話し始めた。

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