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第19話
「───2年って、長いよね」
「………え?」
「2年もあったなら、何でもできたはずだよ。メールするとか……会いに行くとか……」
「……………」
「でも、僕たちは何にもしなかった……一歩も動き出さなかった……」
「───それは!」
「それが答えなんだと思う。僕たち、もう、一緒に時間を過ごす必要はないんだ」
「……………」
「今は体調が悪くて弱っているから、誰かに頼りたいだけだよ……頼る相手は、僕である必要はない。必要があったなら、この2年の間に動いていたはずだから」
「……………」
───何か言えるんだったら言いたかった。
けれど、言い返す資格が俺にはなかった。何もしなかったことは事実だったから。
忘れたことなんてなかった。
他の誰かに魅かれることだってなかった。
それでも、俺は動かなかった……臆病だったから。
「……看病しにきてよかった。僕も気持ちの整理ができたから……これで前に進めるよ」
「…………そうか」
前に進める、か……俺に会いに来たことで、お前は前に進めるようになったのか……
俺は、やっぱり好きだということを再確認できただけで、とても前には進めそうにない。
皮肉だ。皮肉なものだが……
「………昨日言ってた『気になる人』と、うまくいくといいな。お前なら……きっとどんな相手だって振り向いてくれるよ」
「うん、ありがと。先輩にそう言ってもらえると、うまくいきそうな気がするよ」
そう言って綺麗な笑顔で俺に微笑んだ。
もう二度と会えないんだったら、せめて最後くらい『いい先輩』で、別れよう……
ちょっとでも背中を押してやろう……他の誰かに向かって進む背中を……
「僕も今度病気になったら、『気になる人』にメールしてみようかな。看病に来てくれるかも」
「それが近づくきっかけになったりして、な」
「ね!いいよね。やってみよう―――じゃ、そろそろいくね……先輩、さようなら」
ふわっと笑って手を振ると、葵はドアから出ていった。
俺は情けないけれど「さよなら」は言えなくて、辛うじて手を振り返した。
「─────────はぁ……」
ドアが閉まってしばらくの間玄関に立っていたが、葵が戻ることはなかった。
思わずしゃがみこんで頭を抱える。
すれ違ってすれ違ってすれ違いまくった恋愛が、今ようやく終わったんだ………俺の気持ちだけを、置いてけぼりにして。
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