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第21話
休み明けで仕事はあれこれとたまっていたが、何とか片づけて、日が暮れる前に葵の職場……駅前の書店にたどり着いた。
家を訪問しようかとも思ったが、何しろ2年ぶりだ。引っ越ししている可能性もある。
だからとりあえず、職場を訪ねてみることにしたんだ。
書店は駅前の商業ビルの2階にある。1階は女性向けの店ばかりで居心地が悪いから、急ぎ足でエスカレーターに向かい、2階へと移動した。
書店に足を踏み入れると、夕方で帰宅途中に寄る客が多いのか、店内は割と賑わっていた。
さて、葵はどこにいるのか……店内をきょろきょろと見回しながらぐるりと回るが、どこにもいない。
───今日は休みか?……でも、おととい休みだったよな……
店の奥にいるのかもしれない、と近くで本の陳列をしていた男の店員に声をかける。
「───あの、すみません」
「はい」と振り返った店員はまだ若い感じで、学生のバイトなのかもしれない。
「内村さんを呼んでほしいんですが……」
「内村ですか?内村は本日、休みをいただいておりますが……」
……なんだ、やっぱり休みか。
せっかく勇気を出して会いに来たのに、出鼻をくじかれた。
どうするかな……家を訪ねてみるか?それとももしかして、出かけているのか?
出直すのがいいかな……
「……次の出勤はいつか分かりますか?」
「あのー……今日は病気で休んでいるそうなので、いつ来られるようになるのかは、よくわからないんですけれど……」
病気、と聞いたあとは、店員の言葉が全く頭に入らなくなった。
「すみませんでした」と言葉をさえぎって、あわててエスカレーターで1階へ降りるとビルの外に出る。
……病気って風邪か?俺がうつしてしまったのか?
一日ずっと一緒の部屋にいたんだ。うつって当然だ。
どうしようか……2年前まで住んでいた家は分かる。とりあえず、そこをたずねてみるか?
駅に向かって歩き始めたとたん、スーツのポケットに入れていた携帯がメールの着信を告げた。
慌てて携帯を取り出し、新着メールを確認してみると……
「───え?」
『風邪ひいて、熱が出た。
会いたい』
俺が葵に送ったメール……それがそのまま転送されていた。
会いたい?
会いたい。
会いたいって書いてある!
メール画面を閉じると、駅に向かって走り出す。
まだ、風邪は治りかけで、げほげほと咳は出るがそんなことには構っていられなかった。
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