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第23話
「ど、どうした!?うまくいかなかったのか!?」
いきなり泣き出すなんて、思ってもいなかった展開に驚く。
『気になる人』に振られたから、俺にメールしてきたのか?……そんなことを考えると、胸がちくりと痛む。
「……ううん……ちゃんと来てくれた……」
首をふったときにぽろぽろとこぼれた涙が、床に小さな水たまりを作る……よっぽど、嬉しかったのかな。
……そんなこと、わざわざ報告なんてしてくれなくてもいいのに、俺を呼び出したのか…?
「そうか……よかったな……で、相手はもう帰ったのか?」
「……ここにいる」
「……は?……今?……ここに?」
葵はうんと、嬉し泣きのままうなずいた。
姿は見えないけれど……そいつはどこにいるんだ?
この部屋……じゃないよな。ということは隣の部屋か?トイレか?浴室か?
っていうか、それって俺、今まさに邪魔者ってことじゃないか?
じゃあ、なんで俺をここに呼んだんだよ……邪魔な俺を呼んだのは、葵の方だろ…?
メールが届いて期待した分だけ、さすがにへこんでしまう。
「───そっか……なら俺、邪魔だろうから帰るわ……今度こそ、幸せになれよ」
──あーあ。告白する前から失恋するなんて情けないな。
長谷川でも呼び出して、ヤケ酒するしかないか……どうせ明日は土曜で休みだ。いちゃいちゃしてるところを邪魔してやろう。
そんな暗いことを考えながら、ドアに向かって歩き出そうとした途端……
「──────ふぇ…、…うぅー……」
葵の嗚咽が聞こえた。
びっくりして振り返ると、床にしゃがみ込んで、小さくなって肩を震わせてる。
「…………葵?」
慌てて駆け寄って……ちょっとためらったが、背中を撫でてやる。
───さっきまで、あんなに嬉しそうだったのに……どうしたっていうんだ?
「……うー、嘘つきぃ……振り、向いて……ひっく……くれ、るって……言っ、た、のに……」
「───嘘なんかついてないよ。ちゃんと振り向いてくれたんだろ?」
そう言うと、葵は涙でびしょびしょの顔をあげて、俺をキッと睨んだ。
「嘘!じゃあ、何、で帰っ、るの!?2年、経っても、先……輩はやっぱり……僕のこと、好き、になっ……くれない!」
泣きながらしゃべるからうまく息が吸えなくて、ところどころ聞き取りにくいけど……言いたいことは何となくわかった。分かったうえで……
「───は?……ちょっと、何がどうなってるのか、よく分かんないんだけど……」
謎だらけの今の状況がつかめなくて、思わず訊きかえしてみたのだが。
そんな俺の反応を見て、さらに「うぅー」と泣き声をもらして顔をくしゃくしゃにした葵は、立ち上がってふらふらと歩きだしたかと思うと、ベッドにとびこむ。
そして、まるでミノムシみたいに頭から毛布を被ると、ひぃくひぃくと泣き出してしまった……
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