23 / 243

第23話

「ど、どうした!?うまくいかなかったのか!?」 いきなり泣き出すなんて、思ってもいなかった展開に驚く。 『気になる人』に振られたから、俺にメールしてきたのか?……そんなことを考えると、胸がちくりと痛む。 「……ううん……ちゃんと来てくれた……」 首をふったときにぽろぽろとこぼれた涙が、床に小さな水たまりを作る……よっぽど、嬉しかったのかな。 ……そんなこと、わざわざ報告なんてしてくれなくてもいいのに、俺を呼び出したのか…? 「そうか……よかったな……で、相手はもう帰ったのか?」 「……ここにいる」 「……は?……今?……ここに?」 葵はうんと、嬉し泣きのままうなずいた。 姿は見えないけれど……そいつはどこにいるんだ? この部屋……じゃないよな。ということは隣の部屋か?トイレか?浴室か? っていうか、それって俺、今まさに邪魔者ってことじゃないか? じゃあ、なんで俺をここに呼んだんだよ……邪魔な俺を呼んだのは、葵の方だろ…? メールが届いて期待した分だけ、さすがにへこんでしまう。 「───そっか……なら俺、邪魔だろうから帰るわ……今度こそ、幸せになれよ」 ──あーあ。告白する前から失恋するなんて情けないな。 長谷川でも呼び出して、ヤケ酒するしかないか……どうせ明日は土曜で休みだ。いちゃいちゃしてるところを邪魔してやろう。 そんな暗いことを考えながら、ドアに向かって歩き出そうとした途端…… 「──────ふぇ…、…うぅー……」 葵の嗚咽が聞こえた。 びっくりして振り返ると、床にしゃがみ込んで、小さくなって肩を震わせてる。 「…………葵?」 慌てて駆け寄って……ちょっとためらったが、背中を撫でてやる。 ───さっきまで、あんなに嬉しそうだったのに……どうしたっていうんだ? 「……うー、嘘つきぃ……振り、向いて……ひっく……くれ、るって……言っ、た、のに……」 「───嘘なんかついてないよ。ちゃんと振り向いてくれたんだろ?」 そう言うと、葵は涙でびしょびしょの顔をあげて、俺をキッと睨んだ。 「嘘!じゃあ、何、で帰っ、るの!?2年、経っても、先……輩はやっぱり……僕のこと、好き、になっ……くれない!」 泣きながらしゃべるからうまく息が吸えなくて、ところどころ聞き取りにくいけど……言いたいことは何となくわかった。分かったうえで…… 「───は?……ちょっと、何がどうなってるのか、よく分かんないんだけど……」 謎だらけの今の状況がつかめなくて、思わず訊きかえしてみたのだが。 そんな俺の反応を見て、さらに「うぅー」と泣き声をもらして顔をくしゃくしゃにした葵は、立ち上がってふらふらと歩きだしたかと思うと、ベッドにとびこむ。 そして、まるでミノムシみたいに頭から毛布を被ると、ひぃくひぃくと泣き出してしまった……

ともだちにシェアしよう!