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第25話

ここ数日、その存在に悩まされ、嫉妬し、二の足を踏まされてきた葵の『気になる人』が、実は俺のことだったらしい…… ……なんだよ、それって思う気持ちもあるけれど、それより嬉しさが優って、思わずニヤニヤしてしまう。 「───葵」 「──────うるさい」 「あーおーいー」 「──────うるさい!」 くるまった毛布の中から拒む声は聞こえるが、『気になる人イコール俺』という仮説を否定はされない。 そう思うとますます、かわいくてしかたがなくなる。 「なー、出て来いって。ちゃんと顔、見せろよー」 「──────もー、うるさいってば!」 すっかりすねてしまったのか、全く出てくる気配がない。 昔からどこかぼんやりしたところがあって、声を荒らげたりすることなんて滅多になかったから、なんだか新鮮な感じがする。 だけど、いつまでもこのままというわけにもいかない。 ───仕方がないなあ…… 会社帰りでスーツを着ているので、とりあえず背広は脱いで床に置く。下は……まあ、しわができてもいいや。クリーニングに出せばすむことだ。 「………よいしょ」 「──────!!」 葵が固まっているベッドの上に俺も一緒に上がると、横に寝転んで毛布の上からぎゅっと抱きしめた。 ───あー、久しぶりだ…… 毛布が邪魔だけど、2年ぶりに抱きしめることができた。 ずっとずっと、もうできないことだとあきらめていたのに……こんな日が来るなんてな。 「……あのさ、お前の言ってた『気になる人』って、俺のことなんじゃないの?……だったら俺、すごく嬉しいなあって、思ってるんだけど…」 見えないけれど、きっとここだろうと思われる葵の耳元辺りで囁く……できるだけ優しい声で。 ──頼むよ……否定しないでくれよ… ただそれだけを祈りながら返事を待っていると… 「───────い」 「え?」 「─────き…い」 「何?」 「─────きらい……大きらい!」 「………はあ!?」 ………なんと、思ってもない返事が返ってきた。

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