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第30話
玄関に立ったままだった俺は、もう一度靴を脱ぐと部屋に戻って葵と向き合う。
葵が心を決めたなら、俺だってちゃんと受け止めなければな……
大体この2年間、ずっと会いたくてたまらなかった相手であり、忘れようとしても忘れられなかった相手だ。
……「好き」ぐらい、何度だって言えるさ。
「……………葵……」
「………はい………」
「……………す………」
「……………」
「………す………す………」
「………す?……」
───あれ?何でだ?
ちゃんと気持ちを伝えなくてはいけないって分かってるんだが、言葉が出てこない。
まずい。まずいぞ。
今を逃したら、もうやり直せないってことは分かってるのに……何で声が出てこないんだよ!
「…………す……」
「……………」
変な汗が背中にじっとりと浮かぶ……何でだ……何で、言えないんだよ!
焦ってますます声は出なくなって……心臓がバクバクして……
「─────うっ!」
まっすぐに俺を見つめていた葵は、零れ落ちそうなほどの涙を目にためて、くしゃっと顔をゆがめた。
「─────わーっ!ごめんごめん!……好き!好きだよ!葵が世界で一番好き!」
やばい!泣かせてしまう!と焦った俺は、夢中で口走って……はっとした。
───俺、何言ってんだよ……世界で一番とか……まあ、本当だけどさ……でも、言ってること、ガキくさくないか?
思わず顔が赤くなって、片手で顔を隠して目をそらすと……
───ぽふっ。
葵が俺の胸元に飛び込んできた。
「………おい……葵?」
「……………僕も……僕も好き……」
ぎゅうぎゅうと俺に抱きつきながら、葵は涙声で言った。
涙声だけど、嬉しさが混じった声で……なんだ、やっぱり「嫌い」じゃないんだろ?
───それに、さ……
「……『気になる人』ってやっぱり俺のこと、でいいんだろ?」
こだわるようで悪いが、どうしても引っ掛かっているから尋ねずにはいられない……
すると……
「……出会っ、た……ときから……僕、の『気になる人』なんて……先輩、以外……いな、い……よ……」
途切れ途切れの涙声が、気になっていた真実を話してくれた…
よかった……ちゃんと俺のこと、好きでいてくれたんだな……
にやにやしてしまう顔を必死で押さえつつ、抱きしめ返そうとした途端……葵の腕が俺の体から離れていった。
「───へ?」
そのままずるずると全身から力が抜けて、俺の体にもたれたまま崩れ落ちる。
わわわっと、慌てて体を支え、抱きおこしてやると……
「うわっ!お前、顔真っ赤!……絶対、熱上がってるぞ!!」
───葵が俺の風邪をもらって寝込んでたこと、すっかり忘れていた……すまん……葵……
よいしょ!と抱え上げると、熱でふらふらしたままの葵をベッドの上まで運んでやった。
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