31 / 243

第31話

ベッドに寝かせて熱を測ると38度3分。 買ってきたスポーツドリンクを飲ませて、レトルトのお粥を食べさせると半分も食べられなくて。 「ごめんなさい」と涙ぐむのをなだめて、薬を飲ませて、冷却シートを額に貼ってやって。 ───あれこれと俺にできることを済ませてベッドの横に座ると、そろそろと毛布から葵の手が俺のほうに伸びてきた。 そっと握ってやると、やっぱりぽかぽかしている。熱のせいだな。 「今、何時?……そろそろ帰る時間?」 「んー……もうすぐ終電だな。帰ってほしい?」 「………いじわる。わかってるくせに……」 ふふっと笑ってやると、葵はぷうっと頬を膨らませた。 とても26歳の男とは思えぬ可愛さで、俺は理性を保つのに必死だ……さすがに病人に手は出せないしな…… 「今晩は帰んないよ…明日は俺、休みだし。熱が下がるまで一緒にいる」 そう言って、冷却シートにのっかっている前髪をサイドに流してやると…… 「……じゃあ、熱下げない。そしたらずーっと、一緒にいてくれるでしょ?」 ───ぶっ!なんだよ、そのワガママ!俺を萌え殺す気か? こいつ、ちょっと天然だからな…きっとこれ、何にも狙ってなくて、素でいってるんだろうな…… 「───それはダメだ。早く治ってくれないと、俺が困る」 「………え……一緒にいたらダメなの?」 ちょっと不安そうな顔をして、俺の手を握る手に力をこめる……ばかだなあ。そんな心配なんて、しなくていいのに。 空いているもう片方の手で髪を撫でながら、葵の耳もとに口唇を寄せて囁いた。 「───だって熱があったら、キスもセックスもできないだろ?」 どうだ、この返し。恥ずかしいだろー。 葵を見ると、案の定顔が真っ赤だ。してやったりとほくそ笑んでいると……葵の手が俺のシャツをぐっと掴んだ。 「熱があっても、キスはできるよ!」 すねた口調で言い返すと、潤んだ瞳で俺を見つめて、シャツを掴んだ手を自分のほうに引き寄せた。 ───あー、もー、なんだよこれ! こんな可愛い生き物に、勝てるわけねーわ…… せっかく我慢してるっていうのに、俺の気も知らず無意識にさそってくれちゃって……この小悪魔めっ! まあ、本人からのお許しがでたんだ…素直に甘えておこう。 葵の手に引き寄せられるまま、顔を近づける……葵もゆっくりと目を閉じて……2年ぶりのキスを…… 「───ふぇっくしょん!!」 あともう少しで触れる……というところで、盛大なくしゃみをした……俺が。 ずるーっと鼻をすする…… 「………わりぃ…俺も風邪をひいてんの、忘れてたわ……」 「───ぷっ!」 一番いいところでかっこ悪い姿をさらした俺を、葵はけらけらと笑いとばして、「そんなところも好き」と言ってくれた。 そんな風に言ってもらえて気は楽になったけれど……早いところ風邪なんて治して、かっこよく続きをしよう……そう心に誓うのだった。

ともだちにシェアしよう!