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第31話
ベッドに寝かせて熱を測ると38度3分。
買ってきたスポーツドリンクを飲ませて、レトルトのお粥を食べさせると半分も食べられなくて。
「ごめんなさい」と涙ぐむのをなだめて、薬を飲ませて、冷却シートを額に貼ってやって。
───あれこれと俺にできることを済ませてベッドの横に座ると、そろそろと毛布から葵の手が俺のほうに伸びてきた。
そっと握ってやると、やっぱりぽかぽかしている。熱のせいだな。
「今、何時?……そろそろ帰る時間?」
「んー……もうすぐ終電だな。帰ってほしい?」
「………いじわる。わかってるくせに……」
ふふっと笑ってやると、葵はぷうっと頬を膨らませた。
とても26歳の男とは思えぬ可愛さで、俺は理性を保つのに必死だ……さすがに病人に手は出せないしな……
「今晩は帰んないよ…明日は俺、休みだし。熱が下がるまで一緒にいる」
そう言って、冷却シートにのっかっている前髪をサイドに流してやると……
「……じゃあ、熱下げない。そしたらずーっと、一緒にいてくれるでしょ?」
───ぶっ!なんだよ、そのワガママ!俺を萌え殺す気か?
こいつ、ちょっと天然だからな…きっとこれ、何にも狙ってなくて、素でいってるんだろうな……
「───それはダメだ。早く治ってくれないと、俺が困る」
「………え……一緒にいたらダメなの?」
ちょっと不安そうな顔をして、俺の手を握る手に力をこめる……ばかだなあ。そんな心配なんて、しなくていいのに。
空いているもう片方の手で髪を撫でながら、葵の耳もとに口唇を寄せて囁いた。
「───だって熱があったら、キスもセックスもできないだろ?」
どうだ、この返し。恥ずかしいだろー。
葵を見ると、案の定顔が真っ赤だ。してやったりとほくそ笑んでいると……葵の手が俺のシャツをぐっと掴んだ。
「熱があっても、キスはできるよ!」
すねた口調で言い返すと、潤んだ瞳で俺を見つめて、シャツを掴んだ手を自分のほうに引き寄せた。
───あー、もー、なんだよこれ!
こんな可愛い生き物に、勝てるわけねーわ……
せっかく我慢してるっていうのに、俺の気も知らず無意識にさそってくれちゃって……この小悪魔めっ!
まあ、本人からのお許しがでたんだ…素直に甘えておこう。
葵の手に引き寄せられるまま、顔を近づける……葵もゆっくりと目を閉じて……2年ぶりのキスを……
「───ふぇっくしょん!!」
あともう少しで触れる……というところで、盛大なくしゃみをした……俺が。
ずるーっと鼻をすする……
「………わりぃ…俺も風邪をひいてんの、忘れてたわ……」
「───ぷっ!」
一番いいところでかっこ悪い姿をさらした俺を、葵はけらけらと笑いとばして、「そんなところも好き」と言ってくれた。
そんな風に言ってもらえて気は楽になったけれど……早いところ風邪なんて治して、かっこよく続きをしよう……そう心に誓うのだった。
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