34 / 243
第2話
シャワーを浴びて心も体もすっきりさせると、部屋に戻る。
まだ、7時過ぎ。夜は長い。
昨日買った推理小説でも読もうかな……ミステリー大賞をとってデビューして4作目。トリックの秀逸さが売りだった作者なのに、前作はいまいちインパクトに欠けていた……今回の作品で真価が問われるだろうなあ……
一日持ち歩いていたバッグから新書サイズの本を取り出すと……
───ん?
テーブルに置いたままだった携帯電話がメール受信を知らせていた。
本を置いて携帯を手に取る。
……最近雇い始めたバイトの女子大生が、彼氏とデートのたびにシフトを無視して休むから困る、と店長が愚痴っていた。もしかしたら、今日も休んで……のヘルプを求めるメールかも。
明日は休みとはいえ、今から仕事なんて大変なんだけどなあ。
気は重いけれど無視するわけにはいかず、受信ボックスを開いてみると……
「─────え?」
届いていたメールの送り主を見て、操作していた指が止まった。
「……………嘘、だ……」
手が……手が震える。見間違いじゃないかと思って、何度も何度もまばたきをし、何度も何度も画面を確認する。
でも、間違ってない。間違いじゃない!
───そこには「田中雅行」と……先輩の名前が2年ぶりに表示されていた。
「……どうしよう…」
怖い。開くのが怖い。
もし、お別れのメールだったら?結婚の報告だったら?
そんなもの、見たくはない。
でももし、会いたいというメールだったら?やり直したいのだったら?
今すぐにでも、見たい。
どうしよう……どうしよう……
あんなに待ちわびていたメールなのに、いざ届くとこんなに迷ってしまうとは……
しばらく逡巡した後……結局開いてみることにした。
『風邪ひいて、熱が出た。
会いたい』
……会いたい。
会いたいって書いてある。
「……………っ……ううー………」
足から力が抜けて、床にしゃがみ込んでしまった。涙が後から後からこぼれてきて、画面が全く見えない。
短いメール。相変わらずそっけない。そっけないけれど……
まだ、僕のことを覚えていてくれたんだ。
僕に会いたいと思ってくれたんだ……それだけで胸がいっぱいになる……
やっぱり好きだ……
先輩が好き……
あきらめるなんてできないよ……
……嬉しくて……嬉しくて……涙が止まらなくて……しばらくそこから動けなかった。
ともだちにシェアしよう!