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第4話
先輩の家まで、僕の家からは6駅離れている。途中で乗り換えが必要だから、時間帯によってはすぐにはいけない。今の時間は乗り継ぎがよくて、思っていたより早く着きそうだ。
就職が決まったときに、実家を出ることは決めていて、どうせなら先輩の家の近くに住もうかと相談したことがある。実を言えば、本当は一緒に暮らしたかったんだけど……何て返事が来るか分からなくて、それは言えなかった。
僕が「近くに住みたい」と言ったら、先輩の返事は一言。
「俺んちの近くより、職場に近い、通勤の便がいいところに住め」だった。
「そうだよね」と返事をしながら、泣きたくなるほど胸が苦しくなった。
学生のときのように、先輩の仕事の時間に合わせることができなくなるのは、予想できていたから。何となく、すれ違っていくに違いないと……うまくいかなくなるに違いないという予感があったから。
最寄りの駅に降り立つと、駅前のスーパーに入って買い物をする。
持ってきたメモを見ながら一つ一つカゴに入れていく。
よし、忘れ物はない。
支払いを済ませて店を出ると、先輩が住んでいるはずのアパートへ向かう。
学生のころから住んでいる部屋で、2階の角部屋だから少しは広いのかもしれないけれど……社会人が住むにはやっぱり手狭だ。もう引っ越しているのかもしれないと思っていたけど、メールには何も書かれていなかったから、今も住んでいるのだろう。
記憶をたどりながら道を進むと、懐かしいアパートへと到着した。
外階段を上がって2階へ……
廊下を進んで一番奥の部屋につくと、そこにはちゃんと「田中」という表札が出ていた。
……すうーっと息を吸ってゆっくり吐き出す。深呼吸を繰り返して……
「───よし!」
意を決して、インターホンを押した。
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