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第6話

「───こんばんは……ひさしぶり、先輩……」 そこには、2年前とちっとも変わらない姿で、先輩が立っていた。 風邪のせいなのか、少し元気はなさそうだったけど、見た目は少しも変わらない。 ちょっと短めの無造作にそろえた髪も、意志の強そうな眉も、少し薄めの口唇も……着ている部屋着だって以前と変わらない。 本当に2年もたったとは思えないほど、記憶のままの姿だ……自然と昔に戻れるような気がして、何だか嬉しくなる。 ……でも。 「……な…んで……?」 僕を見た先輩は目を丸くして、ドアを開けた姿のまま固まってしまっている。 ……ん?何でそんなに驚くの? 呼び出したのは先輩なのに? 「……何で?……何でって、メールくれたから……熱、大丈夫?」 ちゃんと来た理由を話したんだけど、きょとんとした顔……というか、困惑した表情で……どうしてこんな反応なのかな…… メール、何度も確かめたよ? ちゃんと「会いたい」って書いてあったけど…… 変な沈黙の後、あっと目を開いた先輩は、「ちょっとごめん」と言って部屋に戻ってしまった。 「……………」 ───何でだろう…思ってたのと違う… 大歓迎されるとは、さすがに思ってはいなかったけど……今のは絶対「来るとは思っていなかったヤツが来た」という反応だったよね…… 一人玄関先に残されて、さすがにこの扱いは堪える…… 「……会いたく……なかったのかな……?」 考えたくなかったけれど、それが一番しっくりくる答えという気がする。 たかが一通のメールで盛り上がって……こんなとこまで来て……でも送り主はそんなつもりじゃなくて……本当に会いたいなんて思ってもないのにメールを送信してて…… 馬鹿みたい。 馬鹿みたいだ、僕。 ぎゅっとレジ袋の持ち手を握って、涙をこらえる。 やっぱり、来なければよかった… ───帰ろう。 買ってきた物はドアノブに引っかけて、先輩が戻ってくる前にここを出よう。 そうすれば、これ以上傷つかなくて済む。そう思ってるのに… 「───やっぱり、馬鹿だなあ…」 どうしても、足が動かなかった。 心は傷つくのを恐れて帰りたがっているのに、体は先輩を求めて立ち去るのを拒んでいる。 自分の思いどおりには動いてくれない体がもどかしいけれど…でも、ここで逃げたらもうチャンスはないことも確かだ。 ならば……やっぱり、中に入れてもらおう。 ちょっと落ち込んだ様子で玄関に戻ってきた先輩の姿に、胸はまたちくりと痛んだが、ここはどうしても譲れないんだ……ごめんね。 「あの……ちゃんとご飯食べた?いろいろ買ってきたんだけど……中に入っていい?」 先輩は僕の手にしているレジ袋を一瞥すると、「どうぞ」と言って部屋に入れてくれた。

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