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第8話
──────ピンポーン!
突然の来客があったのは、お粥を食べ終わった先輩に、薬と水を手渡したときだった。
「……誰だろう?宅配業者かな……」
部屋の主である先輩も怪訝な表情……もうだいぶ夜も更けてきているし、心当たりが本当にないようだ。
ちらりとベッドサイドを見ると、さっきまで使っていた体温計が目に入る。
……熱も上がっていたし、無理させるのはよくないよね。
「あの……僕、出てもいい?」
差し出がましいかな…と少し心配だったが、とりあえず言ってみると「ああ、頼む」と、あっさり了承されたので、玄関に向かう。
かけてあった鍵を開けてドアを開けてみると……そこには一人の男の子が立っていた。
「……えーと……どちら様ですか…?」
先輩には確かお兄さんはいるけれど、弟がいるとは聞いたことがない。ドアの向こうに立っていたのは、明らかに僕たちより年下の男性だった。
高校生にも見えるけれど、もう少し上かな…?背は僕より高いけれど、何だかとってもかわいらしい雰囲気を醸している。目がくりっとしているからそう感じるのかも。
なんだろう……胸がざわざわする。
その子は僕の顔を見て、表札を見て、それから困ったような顔をしてドアの後ろを見た。
……先輩に会いに来たのに、思ってもなかった別人が出てきたから、困惑しているのかもしれない。
「………あのー……ここは『田中雅行』さんのお宅ですよね…?」
しばらく考え込んだ後、尋ねてきた。
「………ええ――今呼んできますから、しばらく待っててください」
そう言ってとりあえず、中には入れずに一旦ドアを閉めた……心の整理がしたかったから。
あの子はちゃんと先輩の名前を言った……部屋を間違えたのではない。
……先輩に会いに来たのだ。
もう夜も遅い。こんな時間に訪問するくらいなのだから、よほど親しいのだろう。
自分で考えたくせに「親しい」という言葉がやけに胸に棘を刺す……
───彼は、新しい恋人なのかな…
僕と付き合えたのだから、他の男と付き合っても不思議はない。ましてや……あの子は僕よりずっと若くてかわいらしいのだから……恋に落ちるのだって不思議ではない。
先輩にはちゃんと、新しい相手がいたんだ。ならば……
「……なんだ……僕、邪魔者じゃないか……」
───帰ろう。
荷物を取りに部屋に戻ると、先輩が心配そうにこちらを見る。
……大丈夫。あの子を追いかえしたりはしてないから。
「───どうした?誰だったんだ?」
誰って……本当は分かっているんだろうに……
うまくはぐらかそうとしているみたいで、泣きたい気持ちになる。
本当は教えたくない……呼んでもらえた今日ぐらい、先輩を独り占めしたいけれど、けどそんなこと、できるわけもなくて。
「……お客さん、来てる」
「客?」
「……うん……かわいい感じの男の子……僕、もう帰ろうか?」
先輩のために帰ることを提案した……いや、自分のためかな。先輩が誰かと親しくしているところなんて、見ていたくない。
そんな僕の言葉を聞いて、なぜか先輩はぎょっとした顔で言った。
「いやいや!帰る必要ないから!───ちょっと待ってろ」
先輩は慌ててベッドから起き上がると、ふらふらしながらも玄関に向かう……何だか必死な感じがして、また苦しくなる。
そんなに早く会いたい相手なのかな…
僕には見せたくなかった相手だったのかな…
涙が出てきそうで、それをまぎらわせるように荷物をまとめる。
……結局、何もしてあげられなかったな……まあ、僕じゃなくてもよかったんだろうな……
帰ろう……と立ち上がったところで、玄関から声が聞こえ始めた。
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