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第9話
「───か!───川!」
「───だろ?──────から。ほら、──────」
……あれ?
玄関のほうから聞こえてくるのは、先輩の声と……さっきの男の子のとは違う、ちょっと低めの声だった。
……あれ?あの男の子、一人だったはずだけどなあ。
不思議に思って玄関の近くまで行ってみると、ドアの向こうにはあの男の子ともう一人、別の男性が立っていた。
先輩の背中に遮られてよくは見えないけれど、先輩と同じくらいの背丈と年齢の人かな……でも、僕は初めて見たから大学の友達ではなさそうだ。
先輩の手を見ると、駅前のスーパーのレジ袋を持っている。差し入れを受け取ったみたい。
ということは、わざわざお見舞いに来てくれた、知り合いなのかな……と思っていたけれど。
「ちょっと待てよー。せっかく来たのにそれは冷たいだろ」
「何だよ!こっちは病人なんだ。さっさと帰れよ」
……ドアを一枚はさんで、言い合いになっている。
仲が良くない人なのかな……けんかになってるし……これって仲裁に入るべき……?
でも、先輩のことだから仲の悪い人から素直に品物を受け取るとは思えないし……それに、頑ななように見えて意外と、押しに弱いんだよね。
きっと最終的には、部屋に入れてあげるんだろうな。だったら……
結局仲裁に入るのはやめて、キッチンに入る。やかんを火にかけて、食品のストックが入ったカゴをごそごそと漁ってみると…
「……………あった」
日本茶のパックが見つかった。コーヒーでもいいけれど、お粥を食べるほどの病人なんだから、少しでも胃に優しいもののほうがきっといいよね。
食器棚から急須と湯呑を取り出すと、3人分の茶葉を入れて、湯を注ぐ。
「……あー……いい匂い……」
緑茶の香りって心を落ち着かせるよね……玄関の二人はまだまだ大騒ぎしているけれど。
お盆に急須と湯呑3つをのせて、準備完了。それを手に玄関に向かう。
「あーイライラするなあ…お前少しは感謝とかしろよ!」
「なんでお前に感謝するんだよ。来てくれなんて、一言もいってないからな、俺は!」
「本当にお前は素直じゃないなあ!だいたい……」
「──────啓吾さん!!」
玄関の二人はまだ言い合いを繰り広げていたけれど、その真ん中に挟まれていたさっきの男の子が、びっくりするほど大きな声で名前を呼んだ。
……わ、意外。おとなしそうにみえたけど、なかなかやるなあ。
その勢いに押されて、二人とも思わず黙る……
「……ここ、アパートの廊下だよ。場所を考えようよ!それに今何時だと思ってるの?近所迷惑です!」
「……………」
「……………」
「「…………すみません」」
───この中でどう見たって一番年下の子に、思いっきり注意される二人……謝る以外、返す言葉もなく、どちらも固まってしまった。
何だろう、ケンカしたことを先生に怒られた子どもみたい……しゅんとなっていて二人ともちょっとかわいい。
でも、気まずそうに押し黙っているのがちょっとかわいそうに見えて……
「───先輩」
固まったままの先輩の背中に声をかける。
こちらを向いた顔がなんだかしょんぼりしていて、助けてあげなきゃなあ……って気持ちになって。
「お茶いれたよ。中に入ってもらったら?」
そう言ってお盆をみせると、先輩はほっとした表情を浮かべ、「───仕方ないな…」と、ドアを開けて二人を中に入れてあげたのだった。
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