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第10話
先輩は二人を部屋の中に入れてあげると、ベッドの横のコタツに座らせた。
僕はお盆にのせていた急須と湯呑を置いてお茶を注ぐと、「どうぞ」と言って三人にお茶を出す。
……さて。いろいろ話もあるだろうし、僕は席を外したほうがいいかな。
そのままキッチンに向かおうとすると、先輩が腕をつかんで引き止めた。
───え?
思ってもいなかった先輩の行動にびっくりしていると、ぐっと引っ張られて先輩の横に座らされた。お前も一緒にいろ……ってこと?
……僕、全然関係ないのに……一緒にいていいのかなあ……
向かい側の二人を見ると、男性のほうは僕たちの様子を何やら興味深そうに眺めているし、男の子のほうは僕と同じで、ちょっと居心地悪そうにちょこんと座っている。
誰も何にも言わず、変な沈黙が部屋を包む。
この三人は、いつもこんな感じなのかなあ……
しばらく黙って様子をうかがっていると、男性のほうから「そちらの人は?」と、きっかけを作ってくれた。
「……ああ、その……後輩だよ。大学の後輩で、内村っていうんだ」
「………内村葵です。いつも先輩がお世話になっているようで……わざわざお見舞いも、ありがとうございます」
自分でも挨拶をして、ぺこりと頭を下げた。
……頭を下げながら、先輩の「大学の後輩」という言葉にちくりと胸が痛む。
そうだよね…当然だ。
2年も会ってなかったんだから、もう「恋人」ではないということかもしれないし……たとえ今でも「恋人」だと思ってくれているとしても、そう簡単に同性とつきあっているなんて、言えないよね。
それなら僕はただの「後輩」だ。
「こちらこそ、さっきはお騒がせしてすみません。田中君と同じ会社で働いています、長谷川啓吾と申します。こちらは高瀬悠希といって……」
先輩とケンカしていた男性は同僚さんだった。会社でも仲良くしているのかな?ケンカしながらも親しそうだったし…
長谷川さんが自己紹介をしている間、先輩はじっと男の子……高瀬君を見ている。
それこそ、穴が開くんじゃないかと思うくらい、じっと……
……もしかして先輩は、高瀬君のことが好きなのかなあ……かわいい子だしね……
居心地が悪い……というか苦しい……
やっぱり台所で待っていよう、そう思ったとき……
「──────あー!!」
先輩が高瀬君を指さして、びっくりするほど大きな声を上げた。僕も長谷川さんも高瀬君も、突然の先輩の行動に驚いて目を見張る。
「君もしかして、先週、長谷川の家の前でずっと待ってた子じゃないか?!」
「───えーと……はい。それ、僕です」
「やっぱり!やっと思い出した。……あのときは悪かったね、さっさと帰って。こいつの世話、めんどくさかったでしょ?」
「いえっ、そんな!……あの……気にしないでください。僕がしたいことをしただけですので……」
……何だかよく分からないんだけれど、先輩と高瀬君は会ったことがあるみたい。
すると今度は、長谷川さんのほうを向いて話し始める。
「───あ、思い出した。そういえばお前、約束が違うじゃねーか」
「は?約束?」
「そうだよ。見舞いに来るときは必ず、自慢の彼女を連れて来いって言っただろう?勝手になかったことにするなよな!本当だったら中には入れないんだからな!」
先輩はピシッと人差し指で、長谷川さんの顔を指さした。
なんだか勝ち誇ったような声だけど…人を指さすのはよくないよ、先輩。
「約束は破ってないぞ」
すると長谷川さんは、意味深な笑みを浮かべて先輩に言い返した。
「は?……だって───」
先輩が最後まで言い終わらないうちに、長谷川さんは高瀬君の腕をつかんで自分のほうへ引き寄せると、きっぱりと言った。
「───この子、俺の恋人……ちゃんと自慢の恋人を連れてきたぞ」
「「「…………え──────!!!」」」
僕と先輩と……なぜか高瀬君まで、大きな声で驚いた。
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