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第12話
とっても幸せそうな二人はその後、「病人に無理はさせられないから」とすぐに帰って行った。
見送ってドアを閉めると、「───ああ、疲れた……俺、寝るわ」と、本当にきつそうな声で先輩が言った。
熱が上がったのかもしれない。ふらふらしながらベッドまで戻ると倒れこんでしまった。
毛布をかけ直してあげると…
「───お前、今夜はどうすんの?」
先輩が壁のほうを向いたまま、僕に尋ねた。
二人の間にしばらくの沈黙……
泊まりたいって、自分で言うのは簡単だったけれど、あえて言わない……どうしても先輩に引き止めてほしかった。
「泊まっていけ」とか「もう少し一緒にいて」とか……「帰るな」でもいい。
幸せなそうな高瀬君を見て羨ましくなったから、そんな贅沢なことを求めてしまったのだろう。どきどきしながら待ってみる。
でも、先輩の口から出てきた言葉は…
「そろそろ終電の時間だぞ。電車できたんだろ?」
やっぱりいつものそっけない言葉。
背中しか見せない先輩からは、何の感情も読み取れなかった。
………そうだよね。
ぼくはあの子みたいにかわいくはなれないし、優しい言葉をもらえるような資格もない。
愛されてもいないのに、求めるほうが間違いなんだ。
「うん。大丈夫……先輩が寝たらちゃんと帰るから」
壁を向いたままの先輩から「そうか」と短い返事が返ってくる。
……心配しなくても、ちゃんと帰るよ。
分かってるんだ、僕だって。ちゃんとわきまえているつもりだ。
僕はもう、先輩にとって「大事な人」ではない……というか、もしかしたらはじめから一度も、大事と思われたことなんてなかったのかもしれない。
この再会だって、ただ気まぐれにメールを送ってみただけなのかも。
いざ会ってみたら、やっぱり違ったと……そばにいてほしいのは僕ではないと思ったのかもしれない。
今帰ればきっと、もう二度とは会ってくれない……
───やだ。
そんなのは絶対に嫌だ。
帰りたくない。
帰りたくないよ。
お願い。
引き止めて。
一言でいいから、「帰るな」って言って!
「……………」
………でも、何にも言ってもらえなくて。
「───おやすみ、先輩」
あきらめて部屋の電気を消した。
これ以上待っていたら、泣いてしまいそうだったから。
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