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第13話
先輩が眠ったことを確認すると、一人キッチンに戻って片づけを始めた。
三人が使った湯呑と急須、やかんをなるべく音をたてないようにそっと洗って、布巾で拭いたら棚に戻す。
最後の一個を片付けたところで、僕の手にぽつりと滴が落ちた。
「……………あれ?何これ……」
滴は次から次に落ちては僕の手を濡らして……そこでようやく気づいた。
───それは僕の涙だった。
「……………ふぇ……うぅ……」
泣いていることに気づいてしまったら、我慢できなくて思わずしゃがみこんでしまう。
……立っていることさえ辛かったから。
分かっていた……分かっていたのに、何で期待してしまったのだろう。
自分が愛される存在だったなら、もっと早く連絡があったはずだ。
2年ほうっておいても平気なほど、どうでもいい存在……それが僕だ。
期待するなんておこがましい。
みっともない。
なんてあさましいんだ。
何でこんな大事なことを、忘れていたんだろう。
……消えてなくなってしまいたい……
しばらく泣いて、泣いて、泣いて……涙が落ち着いたところで荷物を持つ。さっき帰る準備をしていたから、すぐに支度は整った。
……最後にもう一度、先輩の顔を見ていこう。
もう二度と会えないのだから、これくらい許されるはずだ。先輩は寝ているのだから、不快に思われることもないだろう。
足音に気をつけながら、暗い部屋をそうっと進む。
枕元につくと、ベッドサイドのライトを、明るさを抑えめにしてつけた。
うっすらとオレンジ色の光に照らされた先輩は、額や首元に玉のように汗をかき、呼吸が荒くてきつそうだ。
見るからに具合は良くなっていなくて、熱にうなされている。
……おいて帰りたくない。
好きな人がこんなに苦しんでいるのに、おいていくなんてできないよ。ほうってはおけない。
そうだよ。
どうせ、好かれていないんだ。
どうせ、もう会えなくなるんだ。
だったらたとえわがままでも、自分のしたいことを、最後にしてもいいんじゃないかな。
手にしていた荷物を部屋の隅に置くと、僕は浴室に向かった。
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